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【ノイデコ解説 #23】『Is This It』を解く——2000年代ギターロックの起点

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ノイとデコについて

本記事は、NOISE // DECODE のゆるキャラ ノイ と デコ の対話形式でお届けします。

ノイ は、音楽を感情や情景で感じ取る「感覚派」。夜やコーヒー、散歩と相性がよく、「なんかエモい」「夜に聴きたくなる」といった直感で語ります。

デコ は、曲構成・歌詞・制作背景を読み解く「分析派」。データと構造が好きで、「なるほど、ここがポイントだね」と冷静に解説します。

二人は視点こそ違いますが、音楽への愛は同じです。感じ方と読み方、両方の角度からアルバムの魅力を探っていきます。

最初の一音で、部屋の空気が変わる

ノイ: 「Is This It」のドラム、メトロノームみたいに刻まれてるのに、なんか生っぽい。夜中に一人で聴くと、街の灯りが少し近く感じる。

デコ: タイトル曲から本作の設計が見える。シンプルなドラムライン、控えめなベース、Julian Casablancasの声が前に出る——アルバム全体で繰り返される骨格だ。多くの曲は限られたトラック数によるシンプルな録音で、音数を絞った作りになっている。

ノイ: 派手なプロダクションじゃないのに、なんかエモいよね。エモとチルどっちつかず。

デコ: 意図的なミニマリズムだ。ギミックや過剰な装飾を避ける姿勢で制作され、ライブで鳴らすイメージに近い録音を目指した。結果として、2000年代初頭の過剰なスタジオ加工とは逆方向の「引き算のロック」として聴かれてきた。

地下室で生まれたサウンド

デコ: 制作背景を押さえておこう。2001年3月から4月、マンハッタン・イーストヴィレッジの地下スタジオ「Transporterraum」で、プロデューサーのGordon Raphaelと約6週間で録音された。RCAと契約後、最初はPixiesなどを手がけたGil Nortonとのセッションも行われたが、バンド側は「きれいすぎる」「pretentious(気取っている)」と感じ、3曲分を破棄。最終的にはEP『The Modern Age』でも協力したRaphaelに戻った。

ノイ: 大きなスタジオを出て、地下室に戻ったってこと?

デコ: そういう流れだ。ドラムはマイク3本、ギターは部屋の両側にアンプを置いて各1本——RamonesやVelvet Underground的な、直接的な録音アプローチを取っている。Casablancasは小さなPeaveyの練習用アンプ越しに歌い、ボーカルにローファイ感を残した。歪んだボーカル処理も、Julianが最初は拒否したが、レベルを下げて採用された——本作の「少し荒れた温度感」の源のひとつだ。

ノイ: ラベル側は「プロっぽくない」と文句言ったって聞いたけど、それでもこの音で出したんだ。

デコ: RCAのA&R担当は初期の録音に不満を示したが、Casablancasが新曲をブームボックスで聴かせて説得した、とRaphaelが後年のインタビューで語っている。メジャー契約のあとに、あえて「未完成に聞こえる」音を貫いた点が、本作の性格を決定づけた。

11曲——NYの若さと、ツインギターの語法

デコ: 曲順も含めて、いくつかの塊に分けて聴くと全体像が見えやすい。

ノイ: どんなふうに?

デコ: 前半は都市の違和感と疾走感。「The Modern Age」は現代生活への苛立ちや若者の焦燥を描いたとも解釈される一曲。「Soma」はAldous Huxleyの小説に由来する架空の薬をモチーフとし、快楽や現実逃避を象徴する”Soma”を歌詞に据えている。続く「Barely Legal」は同意年齢に達した少女を題材にした、挑発的な歌詞で知られる。

ノイ: 歌詞、英語ざっくりでも「都会の若者の夜」って感じがする。恋も性も、なんかわかる〜。

デコ: Casablancasの作詞は、ニューヨークの若者の生活と関係性を中心に据えている。だが本作は歌詞だけのアルバムではない。中盤の「Someday」はオールディーズやロックンロールの空気を感じさせるギターと、絡み合うツインギターが本作の代表的手法を示す。シングル「Last Nite」も同様で、軽快なカッティングギターとポップなメロディが同居する。

ノイ: 「Last Nite」は明るいのに、どこか切ない。散歩しながら聴きたい曲。]

デコ: 「Hard to Explain」は逆に、ドラムにドラムマシンのように聴かせる質感が与えられている——「生演奏」と「スタジオ加工」のあいだを行き来する曲だ。ラスト前の「Trying Your Luck」はアルバムで最もメランコリックな地点。締めの「Take It or Leave It」は、前向きな推進力で11曲を閉じる。

ジャケットと、米国版という別の顔

デコ: 本作には、音以外にも地域差がある。国際版のジャケットはColin Laneによる女性の臀部と手袋の写真。米国向けには、バブルチャンバー内の素粒子軌跡のサイケデリックな画像に差し替えられた。

ノイ: 同じアルバムなのに、表紙だけ別物って知らなかった人も多いよね。

デコ: 米国の小売や保守系ロビーへの配慮が理由として語られることが多い。さらに2001年9月11日の同時多発テロのあと、米国でのCD発売は9月25日から10月9日へ延期された。当時のニューヨークの状況を考慮し、「New York City Cops」は米国CD盤から外され、「When It Started」に差し替えられた。なお、同日発売の米国盤レコードには元の曲順が残っている。

ノイ: 地域によって中身もジャケも違うアルバム、今だとちょっと不思議な感じする。

デコ: 発売自体も段階的だった。オーストラリアが2001年7月30日、英国が8月27日、米国が10月9日——ツアー日程に合わせた世界同時発売ではない。英国では初週にUKアルバムチャート2位、米国ではBillboard 200で最高33位と、批評的な評価の高さに比べてチャート順位は控えめな面もあった。それでも2000年代のギターバンド再評価の触媒として語り継がれてきた。

2000年代初頭、何が変わったのか

ノイ: 「ロックを救った」みたいに大げさに言われることもあるけど、実際どうなの?

デコ: 「ロックを救った」と断定するのは言い過ぎだ。ただ、批評上の位置づけとしては明確だ。ガレージ・ロック・リバイバル(garage rock revival)、ポストパンク・リバイバル(post-punk revival)の文脈で、The Strokesは2000年代初頭のギター・バンド再評価の中心のひとつに置かれている。The LibertinesやArctic Monkeys、Franz Ferdinand、Kings of Leonといったバンドとともに、2000年代のギター・ロック再興を象徴する存在となった、と語られることが多い。

ノイ: nu-metal全盛期のあとに、スキニージーンズとギター、みたいな流れが来た、って言われるやつ?

デコ: そういう説明もよくされる。ただし影響は音楽だけに留まらない——ファッションやA&Rのスカウト方針にも波及した、とする分析もある。一方で、本作に影響を受けた後続のバンドの多くは、細部まで再現できなかった、という批評もある。影響力の大きさと、模倣の限界——両方が本作のレガシーだ。

なぜ今も聴き返すのか

ノイ: 2001年の音なのに、2020年代に聴いても古さより「今っぽさ」が先に来る。夜にコーヒー飲みながら聴くと、なんかエモいよね。

デコ: 理由はいくつかある。第一に、メロディとリフの完成度が高い。「Someday」「Last Nite」「Hard to Explain」は独立した名曲として生き続けている。第二に、サウンドの「引き算」が時代を超えやすい——過剰なプロダクションに疲れたとき、本作は依然として参照点になる。

ノイ: 35分強でサッと聴けるのもいい。アルバム全体が一つの夜みたい。

デコ: 第三に、本作は「クールさ」の設計図でもある。レザージャケット、無関心そうなボーカル、ツインギターの掛け合い——2000年代のインディ・ロック美学の原型のひとつとして機能した。だが中身は軽くない。Casablancasは「ただのシンガーソングライターになりたくない。パーツが全部機能する曲を書きたい」と語っており、シンプルさの裏に計算がある。

ノイ: かっこよさだけじゃなくて、ちゃんと曲として組まれてる感じ、わかる。

デコ: Julian Casablancas自身が目指したのは、「過去のバンドがタイムトリップして未来から録音した」ようなサウンドだ。結果として、Velvet UndergroundやRamonesの系譜を継ぎながら、2000年代の都市の空気をそのまま封じ込めた記録になった。それが『Is This It』の長寿の理由だと思う。


編集部まとめ

『Is This It』は、地下室での短いセッションから生まれたデビュー作でありながら、2000年代ギター・ロック再評価の起点のひとつとして語られ続けています。Gil Nortonとのセッション破棄、Raphaelによるミニマルな録音、9/11後の米国版改訂——制作と流通の経緯も複雑です。それでも11曲の引き算の美学と、NYの若者たちの生活や感情を描いた歌詞は今も色褪せず、オルタナ・ロックの「再出発」を記録した作品として残っています。

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