近年の国内インディーシーンには、強い自己主張を武器にするアーティストが数多く存在する。
しかしHaruyの音楽は少し違う。
彼女の楽曲には、誰かを圧倒するための派手さがない。
代わりにあるのは、深夜の帰り道や窓際に差し込む夕暮れのような、静かな温度だ。
だからこそ気づけば何度も再生してしまう。
Haruyは、派手なトレンドの外側で確実に支持を広げているシンガーソングライターの一人である。
Tastyのベーシストとして始まったキャリア
Haruyは神奈川県出身のシンガーソングライター。
中高時代に軽音楽部で3ピースバンド「Tasty」を結成し、ベース、ボーカル、ソングライティングを担当していた。TastyはEP『Weep』を発表し、早くからインディーシーンで注目を集めていた。
現在のHaruyを聴くとソロアーティストとしての印象が強いが、そのルーツにはバンドマンとして培われたアンサンブル感覚がある。
彼女の楽曲が単なる弾き語りではなく、バンドサウンドの広がりを感じさせるのはそのためだろう。
HSUが遺したもの
Haruyの名前が広く知られるきっかけとなったのが、SuchmosのベーシストだったHSUことHayata Kosugiとの出会いだった。
2022年に発表されたデビューEP『MAO』は、全曲をHSUとの共作で制作。さらに参加ミュージシャンにはWONKのAyatake Ezaki、SuchmosのTAIHEI、SANABAGUN.の澤村一平らが名を連ねている。
しかしEP完成前にHSUは急逝してしまう。
結果として『MAO』はHayata Kosugi名義として最初で最後の作品となり、Haruyにとっても特別な意味を持つデビュー作となった。
だから『MAO』を聴くとき、そこには新人アーティストの初期衝動だけではなく、一つの音楽的継承の物語が存在している。
まず聴くべき一曲「Swimmer」
YouTubeを記事に埋め込むなら、まず候補に挙がるのが「Swimmer」だろう。
Haruyの浮遊感ある歌声と、ネオソウルやR&Bを通過した洗練されたグルーヴ。
しかし同時に、日本のポップスとしての親しみやすさも失われていない。
海外インディーR&BとJ-POPの中間地点。
その絶妙なバランス感覚こそ、Haruy最大の魅力である。
『MAO』の最高到達点「Lovely」
個人的にHaruyを象徴する一曲を選ぶなら、「Lovely」を推したい。
この曲には彼女の魅力が凝縮されている。
繊細でありながら芯のある歌声。
都会的で洗練されたアレンジ。
そして少しだけ切なさを残すメロディ。
どこかSadeやClairo、あるいは韓国インディーシーンにも通じる空気感がありながら、日本語の響きによって独自の質感を獲得している。
派手なサビがあるわけではない。
それでも聴き終わったあとに感情だけが静かに残る。
そんな楽曲だ。
『CIRCLE』で見せた進化
2024年のファーストアルバム『CIRCLE』は、Haruyにとって大きな転機だった。
EP時代の楽曲に加え、「Saintwood」「Fancy you」「Rowboat」など新曲を収録。特に「Saintwood」はHSUが生前にHaruyと制作していた最後の楽曲でもある。
アルバム全体を通して感じるのは、”夜”から”朝”への移行だ。
『MAO』が都会の深夜を思わせる作品だったとすれば、『CIRCLE』は少しずつ光が差し込むような作品である。
そこにはソロアーティストとして歩み始めたHaruy自身の成長が映し出されている。
Haruyにリスナーが期待していること
Haruyの面白さは、まだ完成されていないところにある。
R&B。
ネオソウル。
インディーポップ。
ジャズ。
ダンスミュージック。
彼女はそのどれにも属しきらない。
だからこそ可能性がある。
近年は『CIRCLE』を経て、さらにEP『KAMINA』を発表し、「変化の肯定」というテーマにも挑戦している。
リスナーが期待しているのは、第二のSuchmosでも、第二のWONKでもない。
Haruy自身の音楽だ。
Tasty時代から続くソングライティングの才能。
HSUから受け継いだ音楽的美学。
そして彼女自身の柔らかくも芯のある歌声。
そのすべてが交差したとき、Haruyは日本のインディーシーンを代表する存在へと成長していくのかもしれない。
少なくとも今は、その過程を目撃できる最も面白いタイミングである。