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現実と幻想のあわいを漂う音楽──ゆうらん船『MY CHEMICAL ROMANCE』レビュー

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近年の日本のインディーシーンにおいて、独特な存在感を放つバンドのひとつがゆうらん船だ。

彼らの音楽を一言で説明することは難しい。

フォークロック、サイケデリックロック、チェンバーポップ、トラッド、ドリームポップ。そうした様々な要素を取り込みながらも、そのどれにも回収されない。どこか懐かしく、それでいて現代的。夢を見ているようでありながら妙に現実的でもある。

そんな不思議な魅力を持つバンドの中心にいるのが内村イタルだ。

内村はゆうらん船結成以前から音楽活動を続けており、高校時代には閃光ライオットに出場。特別審査員賞を受賞した経歴を持つ。当時から卓越したソングライティング能力は高く評価されており、若くしてシーンの注目を集めていた。

その後、大学進学を機に本格的なバンド活動をスタート。2019年頃からゆうらん船としての活動を本格化させると、口コミを中心にその名が広がっていく。

現在ではFUJI ROCK FESTIVALや各地の大型イベントへの出演を重ねながら、日本のインディーロックシーンにおける重要な存在へと成長した。

そして2022年に発表された『MY CHEMICAL ROMANCE』は、そんな彼らの魅力が最も濃密に結晶化した作品と言えるだろう。

ゆうらん船という「架空の街」

『MY CHEMICAL ROMANCE』を聴いてまず感じるのは、その世界観の強度だ。

アルバム全体に流れているのは、どこか現実から少しだけずれた感覚である。

目の前にある風景のはずなのに、なぜか夢の中の景色のように感じる。

あるいは遠い記憶の断片のようにも思える。

ゆうらん船の音楽は、具体的な物語を描きながらも、その輪郭をあえて曖昧にしている。

だからこそ聴き手は自由に想像できる。

それぞれが自分自身の風景を重ね合わせることができる。

本作はアルバムというより、一つの街を歩いているような体験に近い。

曲ごとに違う場所へ移動しながらも、不思議と全体は一つの世界として繋がっている。

サイケデリアと日本語ポップスの幸福な融合

音楽的にも本作は非常に興味深い。

1960〜70年代のサイケデリックロックやフォークロックの影響は明らかだ。

しかし単なる懐古趣味にはなっていない。

むしろ海外インディーの感覚と日本語ポップスの文脈が自然に混ざり合っている。

浮遊感のあるギター。

柔らかく揺れるリズム。

木管やストリングスを思わせる豊かなアレンジ。

それらが複雑に重なりながらも決して重苦しくならない。

どこまでも軽やかだ。

近年の日本のインディーロックには海外志向の作品も多い。

しかしゆうらん船の場合は、海外の音楽を参照しながらも、日本語で歌うことの意味を決して手放していない。

そのバランス感覚こそが彼らの大きな魅力だろう。

「たぶん悪魔が」という傑作

そして本作を語るうえで欠かせないのが、「たぶん悪魔が」だ。

おそらくこのアルバムを代表する楽曲であり、ゆうらん船というバンドの魅力が最も端的に表れている曲でもある。

この曲の素晴らしさは、圧倒的なメロディの強さにある。

一度聴けば耳に残る。

しかし決して分かりやすいポップソングではない。

どこか不穏で、どこか美しい。

幸福と不安が同時に存在している。

まるでタイトルそのもののように、何か得体の知れない存在が楽曲の背後に潜んでいる。

演奏も見事だ。

サイケデリックなギターサウンドが漂いながら、リズム隊はしっかりと楽曲を支える。

そこへ内村イタルの独特な歌声が重なることで、現実と幻想の境界線が曖昧になっていく。

この感覚は日本のロックシーンでも決して多くない。

例えば折坂悠太や細野晴臣の系譜とも接続できるし、一方でAnimal CollectiveやFleet Foxesのような海外インディーとも共鳴している。

それでいて最終的には「ゆうらん船の音楽」にしか聴こえない。

そこにこの曲の凄さがある。

ノスタルジーでは終わらない

『MY CHEMICAL ROMANCE』は懐かしい音楽だ。

だがノスタルジーだけでは終わらない。

過去への憧れではなく、過去を素材として新しい景色を作り出している。

だから古さを感じない。

むしろ現代の日本のインディーシーンにおいて、非常に新鮮な作品として響く。

内村イタルは閃光ライオットの頃から優れたソングライターだった。

しかし本作では、その才能が単なる楽曲制作の枠を超え、一つの世界を構築する力へと発展している。

ゆうらん船が向かう場所

現在のゆうらん船は、日本のインディーシーンの中でも独自のポジションを確立しつつある。

海外インディーの文脈を理解しながら、日本語の持つ響きや情緒を決して失わない。

その姿勢は、今後さらに多くのリスナーを惹きつけていくだろう。

『MY CHEMICAL ROMANCE』は単なる名盤ではない。

ゆうらん船というバンドが持つ可能性を証明した作品だ。

そして「たぶん悪魔が」は、その可能性が最も美しく結晶化した瞬間と言える。

現実と幻想の境界線が曖昧になっていく時代において、ゆうらん船の音楽は私たちに新しい風景を見せてくれる。

その旅は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

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