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踊ってばかりの国「ニーチェ」が映し出す”演じること”と”生きること”──再録が示した『PRISM』の現在地

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踊ってばかりの国の音楽は、常に「変化」と「連続性」のあいだを歩いてきた。

サイケデリックロック、フォーク、オルタナティブ、ブルース──作品ごとにサウンドは姿を変えながらも、下津光史が描く人間への眼差しだけは一貫して変わらない。

2026年にリリースされた10枚目のアルバム『PRISM』は、その歩みを集約した作品と言えるだろう。

「PSYCHE STAR」「6月の現状」と続く先行配信を経て、第3弾として届けられたのが「ニーチェ」である。

この楽曲は2022年に配信シングルとして発表されていた作品だが、今回『PRISM』収録にあたり新たにレコーディングされ、現在の踊ってばかりの国の音像へと生まれ変わった。長年ライブでも大切に演奏されてきた楽曲だからこそ、この再録には単なるリメイク以上の意味が込められている。

4年間の時間が楽曲に与えたもの

2022年の「ニーチェ」は、『moana』ツアーの最中に生まれた楽曲だった。

コロナ禍という特殊な時代を経て、不安と希望が入り混じる空気のなかで鳴らされていたその歌には、どこか切実な祈りがあった。

しかし『PRISM』版では、その祈りはより落ち着き、揺るぎないものへと変化している。

演奏には余白が生まれ、音の一つひとつが以前よりも立体的に響く。

激情をぶつけるというより、「時間を経てもなお残った感情」を静かに歌っているように聴こえるのだ。

踊ってばかりの国は再録によって過去を書き換えたのではない。

過去を受け入れたうえで、「今だから鳴らせるニーチェ」を提示したのである。

だからこそ、この再録は懐古ではなく、現在進行形の作品として成立している。

MVではなく、一編のショートフィルム

今回公開された映像は一般的なMVではない。

タイトルも『Nietzsche Short Movie』。

監督を務めた堀田英仁は、「メンバーにいつか演技をさせたい」という構想を以前から抱いており、本作ではその願いが実現したという。下津光史もそのオファーに応え、「ニーチェ」という楽曲から着想を得た物語を演じている。

映像を見てまず印象的なのは、メンバー全員が”バンドマン”ではなく”登場人物”として存在していることだ。

ライブ映像や演奏シーンはほとんど前面に出てこない。

彼らは役を演じ、物語の中で感情を表現している。

だからこそ、この映像はMVというより一本の映画のような没入感を持っている。

特に下津光史の演技には驚かされる。

普段の穏やかな印象とは異なる危うさや狂気をまといながらも、決して大げさではない。

現実と虚構の境界が曖昧になるほど自然な演技だからこそ、映像全体に独特の緊張感が漂っている。

音楽を視覚化するのではなく、「音楽から生まれた物語」を映像化した作品。

それが今回の『Nietzsche』なのだろう。

「演じる」ということは、「生きる」ということでもある

このショートムービーを観ていると、不思議な感覚になる。

登場人物たちは役を演じている。

しかし私たちもまた、日常の中で社会的な役割を演じながら生きている。

恋人。

友人。

家族。

仕事。

人は状況によって無意識に人格を切り替えながら生活している。

だからこそ、この映像の「演技」は決して映画の中だけの話ではない。

タイトルにもなっている「ニーチェ」が想起させる哲学もまた、人間の生き方や価値観を問い続けたものだった。

もちろん、この楽曲が哲学者ニーチェを直接描いているわけではない。

しかし、自分自身とは何か、人はどう生きるべきなのかという根源的な問いは、楽曲や映像全体から静かに立ち上ってくる。

『PRISM』が提示する踊ってばかりの国の現在

『PRISM』の先行曲を並べると、その意図が少しずつ見えてくる。

「PSYCHE STAR」が宇宙的なスケールを持ち、「6月の現状」が日常を繊細に切り取り、そして「ニーチェ」は人間そのものへと視線を向ける。

どれも方向性は異なる。

しかし共通しているのは、人間の感情を多面的に映し出そうとしていることだ。

アルバムタイトルである『PRISM』は、一つの光をさまざまな色へと分解する存在である。

踊ってばかりの国もまた、一つの価値観を提示するのではなく、人間という存在をいくつもの角度から照らし出そうとしているのではないだろうか。

だから「ニーチェ」の再録は過去の楽曲を焼き直した作品ではない。

4年間という時間を経てなお、この歌が今こそ必要だという意思表示なのである。

演じることと、生きること。

虚構と現実。

過去と現在。

そのすべてを曖昧な境界線の上で鳴らしてしまうところに、2026年現在の踊ってばかりの国の表現者としての成熟がある。

『PRISM』は、その成熟を証明するアルバムになりそうだ。

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