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【ノイデコ解説 #17】七万人の合唱——Oasis『Familiar To Millions』

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ノイとデコについて

本記事は、NOISE // DECODE のゆるキャラ ノイ と デコ の対話形式でお届けします。

ノイ は、音楽を感情や情景で感じ取る「感覚派」。夜やコーヒー、散歩と相性がよく、「なんかエモい」「夜に聴きたくなる」といった直感で語ります。

デコ は、曲構成・歌詞・制作背景を読み解く「分析派」。データと構造が好きで、「なるほど、ここがポイントだね」と冷静に解説します。

二人は視点こそ違いますが、音楽への愛は同じです。感じ方と読み方、両方の角度からアルバムの魅力を探っていきます。

はじめに——『Familiar To Millions』は何の記録か

ノイ: Oasisの『Familiar To Millions』、イントロの「Fuckin’ in the Bushes」から会場が沸く音が聞こえてくるんだよね。CDなのに、なんかわかる〜、立ってる感じがする。

デコ: 2000年11月13日、Big Brother Recordingsからリリースされたライブ・アルバムだ。収録は同年7月21日、ロンドンのウェンブリー・スタジアム(1923年開場の旧スタジアム)での公演を基にしている。2枚組CD版は全21トラック(Disc 1が10曲、Disc 2が11曲)、約91〜92分。Standing on the Shoulder of Giantsツアーのクライマックスを記録した作品だね。

ノイ: タイトル「何百万人に知られた」って、ちょっと大げさじゃない? でもOasisだから、まあそうかも。

デコ: バンドの知名度と、スタジアム規模の観客動員をそのまま作品名にした、自信と自覚が表れている。同年2月発売の『Standing on the Shoulder of Giants』を受けたツアーを記録したライブ盤として、批評上は厳しめだった新作と、観客にとっては不動のアンセムとのあいだをどう見せるか——その答えが本作だ。


2000年のOasis——メンバー交代とツアーの文脈

ノイ: この頃のOasis、ちょっとバンドの顔が変わってたよね。

デコ: 1999年にポール「ボーンヘッド」・アーサーズとポール「ギグジー」・マギガンが脱退し、ジェム・アーチャー(リズム・ギター)とアンディ・ベル(ベース)が加入した。ドラムはアラン・ホワイトが担当している。ライアム・ギャラガー(ボーカル)、ノエル・ギャラガー(リード・ギター)の兄弟を中心とした体制は続きながら、バックラインが入れ替わった時期のライブだ。

ノイ: だから新作の曲と、昔の名曲が混ざってる感じがするのかな。

デコ: その通り。7月21日・22日の二夜連続公演はいずれも完売し、各夜とも約7万人規模の動員とされる。延べでは約14万人が集まった。オープニングにはHappy MondaysやDovesが出演した。旧ウェンブリーは2000年10月に最後の公式イベントを終えて閉鎖される——Oasisのこの公演は、閉鎖を目前に控えた旧ウェンブリーで行われた記録でもある。


セットリストの設計——新旧の配置

デコ: 1枚目は「Go Let It Out」「Who Feels Love?」といった『Standing on the Shoulder of Giants』からの曲で始まり、「Supersonic」「Shakermaker」「Acquiesce」といった初期の代表曲へと続く。中盤の「Gas Panic!」は約8分に及ぶ展開で、ツアー当時の演奏力を示している。

ノイ: 「Gas Panic!」、長いけど飽きないんだよね。会場全体が一つの楽器みたいに聴こえる。

デコ: 2枚目はアンセムの連続だ。「Wonderwall」「Cigarettes & Alcohol」「Don’t Look Back in Anger」「Live Forever」——ここがタイトルの「Familiar to Millions」の意味を最も端的に示す。ラスト前のニール・ヤング「Hey Hey, My My」カバーと「Champagne Supernova」、「Rock ‘n’ Roll Star」で締めくくる構成がいい。静かな曲を挟まず、スタジアム向けの感情の波を途切れさせない設計だね。

ノイ: 「Don’t Look Back in Anger」でノエルが歌い出す瞬間、なんかエモいよね。ライアムじゃないのに、みんな一緒に歌ってる。

デコ: ノエルがリード・ボーカルを取る曲——「Don’t Look Back in Anger」「Hey Hey, My My」「Step Out」——が、兄弟それぞれの役割をライブ上で可視化している。Oasisのライブは、ギャラガー兄弟の二重構造そのものだ。


音源のリアリティ——ウェンブリーと、それ以外

デコ: 本作について押さえておきたい制作上の事実がある。CD版の「Wonderwall」では、ライアムのボーカルの一部が2000年3月5日の横浜アリーナ公演などの音源に差し替えられている。1曲目の一節だけがウェンブリー実録だとされる。7月22日の公演は、ライアムの状態がさらに不安定だったことも報じられている。

ノイ: え、知らなかった。でも聴いてる分には気づかないよ?

デコ: だからこそ批評的に興味深い。ライブ盤でありながら、完全な「その夜の記録」ではない部分がある。逆に言えば、Oasisがライブ・アルバムを「記念品」ではなく「聴ける作品」として仕上げようとした結果でもある。CD版のみに収録されるビートルズ「Helter Skelter」のカバーは、2000年4月16日アメリカ・ミルウォーキー公演の録音だ。

ノイ: つまり、一晩の魔法ってより、ツアー全体のベスト・ショットを編集した感じ?

デコ: その理解が近い。DVD版は7月21日の公演全体とドキュメンタリーを収録し、映像と音声で「その夜」を追える。CDとDVDで体験の質が異なる——2000年当時、DVD、VHS、2枚組CD、カセット、3枚組アナログ、MiniDiscの六形式で同時リリースされたこととも関係している。


記録と時代——商業的成功と批評の温度差

デコ: 英国アルバム・チャートで初登場5位、初週約5万7千枚を売り上げた。英国ではプラチナ認定、映像版は2×プラチナに達している。批評の反応は作品によって分かれた時期でもあり、一部の音楽メディアでは低評価も見られた。

ノイ: 批評家と観客で温度差あったんだ。

デコ: 『Standing on the Shoulder of Giants』自体が前作までと比べて評価が分かれた時期でもあり、ライブ盤もその延長線上にあった。とはいえ、スタジアムを埋めた観客の熱狂は記録に残っている。批評の厳しさと動員の大きさが同居する——2000年のOasisの肖像がここにある。


なぜ今も聴く価値があるのか

ノイ: 2020年代に聴いても、「Wonderwall」の合唱とか古く感じない。むしろ、みんなで歌いたくなる気持ちがわかる。

デコ: ブリットポップ全盛期を経て、Oasisが「スタジアム・ロックの代表」として機能していた時代の音が残っている。ノエルが書いたメロディの強度と、観客がすでに知っている歌詞——ライブ盤だからこそ、曲の力が最もストレートに伝わる。

ノイ: 夜に聴くと、どこか遠い会場の灯りが見える気がする。エモとチルどっちつかず、ってやつ。

デコ: 1996年のネブワース公演(後に『Knebworth 1996』として公式リリースされた記録)と比較すると、規模や伝説性は異なる。ネブワースは絶頂期、本作はメンバー入れ替え後の転換期——Oasisのライブ史をたどるうえで、対照的な二つの記録だと思う。


どう聴くといいか

ノイ: まず通しで。1枚目で新作寄りの曲に慣れて、2枚目で一気にアンセムへ落ちる流れを味わってほしい。

デコ: 「Acquiesce」や「Gas Panic!」のような、スタジオ盤よりライブで輪郭がはっきりする曲に注目するとよい。映像版が見られるなら、観客の顔とステージの距離感を確認したあと、CD版に戻ると聴き分けが変わる。次に『Standing on the Shoulder of Giants』のスタジオ版と聴き比べると、同じ曲がライブでどう変容するかも見えてくる。

ノイ: 音量は大きめがいい。小さく聴くと、会場のざわめきが消えちゃう。


編集部より

『Familiar To Millions』は、Oasisが2000年の批評と観客動員のあいだに立っていた瞬間を焼き付けたライブ盤です。ノイが感じたスタジアムの熱も、デコが解いたセットリストと音源編集の事情も、同じ結論に向かいます。完全な一夜の記録ではない面もありますが、だからこそ「Oasisを何百万人が知っていた時代」の輪郭が、今も鮮明に残っている一枚です。

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