ジャズ、ソウル、ファンク、エレクトロニック・ミュージック。
それらを自在に横断しながら、独自のグルーヴを生み出してきたフランス出身のマルチ・インストゥルメンタリスト、FKJ(French Kiwi Juice)。
ライブではループステーションを駆使し、一人で楽曲を構築していくパフォーマンスが話題となり、YouTubeを中心に世界的な支持を獲得した。演奏、作曲、プロデュース、そのすべてを高いレベルで成立させる稀有なアーティストとして、現代の音楽シーンに確固たる存在感を築いている。
そんなFKJが、2026年9月11日に待望のサード・アルバム『Tyber』をリリースすることを発表した。そしてその幕開けを飾るのが、新曲「Soulmates」である。
本作は単なる新作ではない。
『Tyber』は、FKJがこれまで築いてきたキャリアを総括しながら、新たなフェーズへと進むための作品になりそうだ。
“New French House”の先駆者として
本名Vincent Fenton。
FKJが注目を集め始めたのは2010年代前半だった。
ジャズの即興性、ヒップホップのビート感覚、ソウルミュージックの温かさ、ハウスミュージックの反復性。
それらを自然に融合したサウンドは当時のダンスミュージックシーンにおいて非常に独特だった。
特にライブパフォーマンスは革新的だった。
複数の楽器をその場で録音しながら楽曲を構築していくスタイルは、単なるDJでもバンドでもない第三の表現として受け入れられた。
2017年のセルフタイトル作『FKJ』ではそのスタイルが完成形に到達する。
「Skyline」「Tadow」などの楽曲は世界的な人気を獲得し、FKJはインターネット時代を代表するミュージシャンの一人となった。
フジロックでも証明されたライブアーティストとしての魅力
日本との関係も深い。
FKJはこれまで複数回にわたり
FUJI ROCK FESTIVAL
へ出演している。
特に彼のライブの魅力は、音源以上に「その瞬間にしか存在しない演奏」にある。
同じ曲であっても毎回アレンジが異なり、即興演奏が大きな割合を占める。
そのためFKJの音楽は録音作品だけでは語れない。
ジャズミュージシャンのような即興性と、現代プロデューサーの緻密なサウンドデザインが同居しているのである。
『V I N C E N T』が描いた内省
2022年に発表されたアルバム
V I N C E N T
は、それまでのFKJ作品とは少し異なる空気を持っていた。
作品名に自身の本名を冠したことからも分かるように、より個人的で内省的な作品だった。
コロナ禍を経て孤独や自己との対話を深めたFKJは、これまで以上に「自分自身」を音楽へ投影するようになる。
そこで見えてきたのは、成功の裏側にある迷いや不安だった。
しかしその葛藤こそが、今回の『Tyber』へ繋がっている。
『Tyber』は変化と再生のアルバムになる
公開されている情報によると、『Tyber』は『V I N C E N T』以降の数年間に経験した変化や再生をテーマにした作品だという。制作はロンドン、ロサンゼルス、パリ、ブラジル、フィリピン、メキシコなど世界各地で行われた。
さらにFKJ自身は、人生の大きな転換期に自然の中で深い精神的体験を経験し、「Tyber」と呼ばれる木のような存在との出会いをアルバムタイトルの由来として語っている。
興味深いのは、本作が単なる旅の記録ではない点だ。
『Tyber』には、
- 孤独
- 人との繋がり
- 再生
- 自己発見
といったテーマが一貫して流れている。
それは『V I N C E N T』で始まった自己探求の旅の続編とも言えるだろう。
「Soulmates」レビュー──孤独を祝福する音楽
そんなアルバムの先行シングルとして公開されたのが「Soulmates」だ。
初めて聴いて印象的なのはギターの存在感である。
どこかカルロス・サンタナを思わせる流麗なフレーズが曲全体を牽引しながら、FKJ特有の柔らかなグルーヴがその周囲を包み込む。
楽曲は派手ではない。
しかし非常に心地良い。
まるで夕暮れの海辺を歩いているような温度感がある。
FKJはこの曲について、
「孤独を受け入れることについて歌っている」
と説明している。大切な人との繋がりを大事にしながらも、一人でいる時間の価値を肯定する楽曲なのだ。
だから「Soulmates」はラブソングではない。
むしろ自己との対話を描いた楽曲である。
近年のFKJ作品に共通するテーマでもある「内省」が、ここではより穏やかで成熟した形で表現されている。
『Tyber』はFKJの到達点になるのか
『FKJ』が才能の証明だったとするなら、
『V I N C E N T』は自己発見のアルバムだった。
そして『Tyber』は、その旅の先にある作品なのかもしれない。
公開されている情報からは、ジャズ、ファンク、R&B、サイケデリア、ポップスを自由に横断するFKJ史上もっとも自由なアルバムになることがうかがえる。
「Soulmates」を聴く限り、その方向性は極めて有望だ。
テクニックやサウンドデザインの巧みさだけではなく、人間としてのFKJがこれまで以上に前面へ現れている。
『Tyber』は、新しいFKJの始まりであると同時に、これまでの歩みを総括する作品になるのではないだろうか。
9月11日のリリースが待ち遠しい。