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MONO NO AWARE『のびしろ』考察──遠回りの先にある未来、そのすべてが「のびしろ」になる

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インディーロックシーンにおいて、MONO NO AWAREほど独自の立ち位置を築き上げたバンドはそう多くない。

東京都八丈島出身の玉置周啓と加藤成順を中心に結成された彼らは、大学で出会ったメンバーとともに活動を開始。言葉遊びに満ちた歌詞と、フォーク、ロック、ポップス、サイケデリック、さらには民族音楽までをも飲み込む自由なサウンドによって、早い段階から音楽ファンの注目を集めていった。

彼らの名前が全国区へ広がる大きな契機となったのが各地のフェス出演だった。

特にりんご音楽祭などのインディーシーンを代表するフェスで評価を高めながら、2016年にはFUJI ROCK FESTIVALの新人登竜門であるROOKIE A GO-GOへ出演。翌年にはオーディエンス投票によってメインステージ出演を果たし、一気に「次世代の邦楽ロックを担う存在」として知られるようになった。

2017年に発表した『人生、山おり谷おり』は、バンドの特異な世界観を世に知らしめたデビュー作だった。

続く『AHA』、『かけがえのないもの』、『行列のできる方舟』では、玉置周啓のソングライティングはさらに深化。NHKみんなのうたで話題となった「かむかもしかもにどもかも!」や、アニメ映画『海辺のエトランゼ』主題歌「ゾッコン」などを通じて、その名前はロックファン以外にも浸透していった。

そして2024年の『ザ・ビュッフェ』では、MONO NO AWAREはひとつの完成形に到達したようにも見えた。

生活の機微を描きながら、ユーモアと哲学を同居させる彼らの作風はさらに洗練され、APPLE VINEGAR – Music Award 2025の大賞を受賞。全国ツアーは各地でソールドアウトを記録し、アジアツアーも成功させるなど、その活動規模は確実に拡大している。

そんな彼らが2026年に発表した新曲が『のびしろ』である。

ドラマ『家庭教師の岸騎士です。』のエンディングテーマとして書き下ろされた本作は、一聴すると爽やかなギターポップだ。だが、その軽やかな印象の奥には、MONO NO AWAREらしい人生観が色濃く刻まれている。

「遠回り」の肯定

冒頭で歌われるのは、

「遠回りをしてやっと辿り着いた」

という印象的なフレーズだ。

一般的な価値観では、効率よく最短距離で目的地へ向かうことが良しとされる。

しかしMONO NO AWAREは昔から、無駄や寄り道の中にこそ人生の豊かさを見出してきたバンドだった。

『のびしろ』でもその視点は変わらない。

むしろ遠回りしたからこそ見える景色があり、失敗したからこそ得られる経験がある。

それらすべてが未来へ向かうための「余白」として存在している。

タイトルの「のびしろ」とは、単なる成長可能性ではなく、自分が歩んできた歴史そのものを指しているようにも思える。

MONO NO AWARE流ラブソング

本作はドラマの内容を反映した楽曲として制作されたが、単なるタイアップソングには留まっていない。

「花の名を覚えるほど 景色が変わる」

という一節は実にMONO NO AWAREらしい。

何気ない知識や経験によって世界の見え方が変わる。

誰かを好きになることも同じだ。

相手を知れば知るほど世界が広がり、以前とは違う風景が見えてくる。

恋愛を描きながらも、同時に人間の成長や学びそのものを描いている点に、このバンド特有の知的なロマンがある。

また、

「好きなものなんかナンボあってもいい」

という感覚も印象的だ。

近年のSNSでは、自分の趣味や価値観を明確に定義しなければならない空気がある。

しかしMONO NO AWAREは、そんな窮屈な世界に対して「もっと自由でいい」と語りかけているように聴こえる。

『ザ・ビュッフェ』以降のMONO NO AWARE

『ザ・ビュッフェ』では、人生をひとつの食卓に例え、多様な価値観を肯定する視点が描かれていた。

『のびしろ』はその延長線上にある作品だ。

違うのは視点である。

『ザ・ビュッフェ』が現在地点を俯瞰するアルバムだったとすれば、『のびしろ』は未来へ向かう楽曲だ。

過去を振り返りながら、その積み重ねが未来を作ることを歌っている。

玉置周啓は本作について、「過去の厚みが増して、それが未来へと向かうのびしろになる」とコメントしている。

この言葉こそが楽曲の核心だろう。

経験は失われない。

遠回りも失敗も後悔も、いつか自分を押し上げる力になる。

だからこそ人生には、いつまでも「のびしろ」が存在する。

終わりに

MONO NO AWAREはデビュー以来ずっと、「生きることの面白さ」を歌い続けてきた。

それは社会批評でもなければ、派手なメッセージでもない。

もっと小さく、もっと個人的な感情だ。

道端に咲く花の名前を知ること。

誰かの背中を追いかけること。

月の綺麗さにふと気付くこと。

そうした些細な出来事の積み重ねが人生を豊かにしていく。

『のびしろ』は、そんなMONO NO AWAREの哲学が凝縮された一曲だ。

結成から十年以上を経てなお、このバンドは成長を続けている。

そして彼ら自身もまた、まだまだ大きな「のびしろ」を残しているように思える。

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