2010年代以降、日本のインディーロックシーンが世界との距離を急速に縮めていくなかで、その最前線を走り続けてきた存在がDYGLである。
東京で結成された4人組は、全編英詞によるギターロックを武器に、国内だけでなくアジア、アメリカ、ヨーロッパへと活動の場を広げてきた。初期から海外志向を明確に打ち出しながらも、単なる「海外風インディーロック」に留まらず、日本という土地から生まれる独自の感覚を作品へ落とし込んできたバンドでもある。
その歩みを振り返れば、DYGLは常に変化を恐れなかった。
2017年の『Say Goodbye to Memory Den』では、The StrokesのギタリストであるAlbert Hammond Jr.をプロデューサーに迎え、ニューヨーク・ガレージロックの系譜を継承する鮮烈なデビューを果たした。続く『Songs of Innocence & Experience』ではポストパンクやニューウェーブ的な要素を取り込み、より洗練されたバンドサウンドへと進化。『A Daze In A Haze』ではドリームポップやサイケデリアを内包した開放感あるサウンドを獲得し、『Thirst』ではセルフプロデュースによる内省的な実験性を押し進めていった。
フジロックへの出演や海外ツアーの成功も含め、DYGLはもはや「日本のインディーバンド」という枠組みだけでは語れない存在になっている。アジア圏のオーディエンスを巻き込みながら、自分たちの居場所を世界規模で築き上げてきた数少ないバンドのひとつだ。
そして2025年。
彼らは5枚目のアルバム『Who’s in the House?』を発表した。
しかしこの作品は、単なるキャリアの続編ではない。
むしろDYGL自身が「新しい第一章」と呼ぶほどの転換点となっている。
ライブという原点への回帰
『Who’s in the House?』最大の特徴は制作方法にある。
全曲がクリックなし、全パート同時録音による一発録りで制作された。近年のロック作品では珍しくない手法ではあるが、DYGLの場合は単なるレトロ趣味ではない。これまでの作品で積み上げてきた緻密なレイヤーや空間演出を一度解体し、「4人が同じ部屋で音を鳴らす」というバンドの根源的な行為へ立ち返ろうとしている。
その結果、アルバムには強烈な身体性が宿った。
ギターがわずかに前のめりになり、ドラムが揺れ、ベースが空気を押し出す。
従来なら修正されるはずの微細なズレが、ここでは演奏の熱として機能している。
コロナ禍以降、音楽が再び「人と人が同じ空間を共有する体験」として見直されるなかで、DYGLもまたライブという行為の価値を再発見したのだろう。
『Thirst』からの変化
前作『Thirst』は極めてパーソナルな作品だった。
セルフプロデュースによる自由度の高さと引き換えに、楽曲は内側へ向かう傾向が強かった。
一方、『Who’s in the House?』は驚くほど外向きである。
音はシンプルになったが、そのぶんグルーヴは力強くなった。]
例えばオープニングの「Big Dream」から感じられるのは、近年のポストパンクやガレージロックのエネルギーだ。しかし単なるリバイバルではなく、DYGL特有のメロディ感覚が共存している。ライブ会場で鳴らされることを前提に作られたような推進力があり、アルバム全体の方向性を象徴している。
「One O One」や「Man on the Run」では、従来よりも大胆な展開やリズムチェンジが導入されている。過去作では比較的スマートだったDYGLが、ここでは演奏のスリルを前面に押し出しているのが興味深い。
つまり本作は音数を減らした作品ではなく、「バンドとしての瞬発力」を再獲得した作品なのである。
海外志向のその先へ
DYGLは長らく「海外で通用する日本のバンド」として語られてきた。
実際、The StrokesやArctic Monkeys以降のインディーロック文脈との親和性は高く、海外リスナーからの評価も得てきた。
しかし『Who’s in the House?』を聴くと、彼らはもはや海外基準を追いかけているわけではないことが分かる。
むしろ東京という都市で生きる彼ら自身の感覚を、そのまま音楽へ投影し始めている。
バンド自身も、本作について「日本でランダムに出会った音楽体験が結実した作品」と語っている。ガレージロック、ポストパンク、サイケデリア、オルタナティブロックなど様々な要素が混在しながらも、不思議な統一感を持つ理由はそこにある。
世界に近づくためではなく、自分たちの立つ場所を見つめ直した結果として世界へ開かれた作品。
それが『Who’s in the House?』なのだ。
総評
DYGLはこれまで常に変化してきた。
ガレージロックからポストパンクへ。
ポストパンクからサイケデリックな広がりへ。
そしてセルフプロデュースを経て、今度はライブそのものの熱量へと辿り着いた。
『Who’s in the House?』はキャリア5作目でありながら、彼ら自身が語るように”ファーストアルバム”のような瑞々しさを持っている。
成熟したバンドが原点に戻る作品は数多く存在する。
しかしDYGLの場合は少し違う。
これは原点回帰ではない。
数多くの旅を経た末に、新しい原点を発見した作品なのだ。
『Who’s in the House?』は、その先にあるDYGLのさらなる飛躍を予感させる重要作として記憶されるだろう。