京都出身の5人組バンド・HAPPYは、日本のインディーロックシーンにおいて唯一無二の存在だ。
60〜70年代のサイケデリックロックをルーツに持ちながら、ドリームポップやレゲエ、ソウル、フォーク、さらには現代的なインディーポップまでを自然に溶け合わせる。その音楽は決して懐古的ではなく、”過去の音楽を未来へ接続する”感覚に満ちている。
2014年に発表されたデビューアルバム『HELLO』は、瑞々しいサイケデリック・ポップとして高い評価を受けた。その後、EP『To The Next E.P.』や自主制作の『STONE FREE』を経て、約5年ぶりに届けられた2ndアルバムが『High Planet Cruise』である。長い制作期間を経た本作には、彼らが旅の途中で吸収してきた音楽や価値観が凝縮されている。
『HELLO』から広がった音楽世界
『HELLO』の頃のHAPPYは、ビートルズやピンク・フロイドを思わせるサイケデリック・ポップを現代的な感覚で鳴らすバンドという印象が強かった。
しかし『High Planet Cruise』では、その枠組みを大きく飛び越えている。
レゲエのリズム。
アフリカ音楽を思わせるグルーヴ。
ジャズやゴスペルのようなハーモニー。
サイケデリックという言葉だけでは説明できないほど、作品全体の景色は豊かになった。
それでもアルバムは散漫にならない。
どんなジャンルを通過しても、「HAPPYらしさ」が決して失われないのである。
それはメロディの美しさであり、肩の力が抜けた演奏であり、「音楽は自由でいい」という彼ら自身の思想なのだろう。
アルバムタイトルの『High Planet Cruise』は、その名の通り一つの惑星を巡るクルーズのような作品だ。
12曲を聴き終えたとき、まるで長い旅から帰ってきたような心地よさが残る。
「50 Century Song」はアルバムの中心にある名曲
本作の中でも特に印象的なのが、「50 Century Song」である。
アルバムの中盤に配置されたこの曲は、作品全体の空気を象徴する一曲と言っていい。
レゲエを基調とした穏やかなリズム。
どこまでも広がるようなコーラス。
そして、HAPPYにしか書けない浮遊感のあるメロディ。
どの要素も決して派手ではない。
しかし、何度も聴くうちに心の奥へ染み込んでくる。
未来から届いた手紙のようでもあり、遠い記憶を思い出させるようでもある。
アルバムには実験的な楽曲も並ぶが、「50 Century Song」はその中心で静かに作品全体を支えている。
HAPPYというバンドの魅力を初めて知る人にも、まず勧めたい一曲だ。
映像だからこそ伝わる「50 Century Song」の優しさ
「50 Century Song」のMVもまた、この楽曲の魅力を何倍にも広げている。
監督・編集を務めたSeira Mirrorは、以前「Stone Free」の映像も手掛けており、本作でもHAPPYらしい空気感を繊細に映像化している。
MVにはドラマチックな展開や派手な演出はない。
ただ、人や風景、光がゆっくりと流れていく。
その穏やかな時間の流れが、楽曲そのものと見事に重なっている。
まるで映像も音楽の一部になっているようだ。
「何かを伝えよう」と強く訴えかける作品ではない。
しかし、観終わったあとには不思議と心が軽くなっている。
このMVは、音楽を視覚化するというより、「音楽が持つ温度」を映像へ写し取った作品なのだと思う。
HAPPYが辿り着いた”自由”
『High Planet Cruise』を聴いて感じるのは、「ジャンルを横断する」ということ以上に、「ジャンルという概念から自由になった」ということだ。
サイケデリックも、レゲエも、ポップスも、フォークも、そのどれかではなく、そのすべてがHAPPYというフィルターを通して鳴らされている。
だからアルバムには肩肘張った実験性はない。
自然体のまま、新しい景色を見せてくれる。
5年間という時間は決して遠回りではなかった。
その歳月があったからこそ、彼らは自分たちの音楽をより深く理解し、より自由に鳴らせるようになったのだろう。
『HELLO』が”旅立ち”のアルバムだったとすれば、『High Planet Cruise』は、その旅の途中で見つけた景色を詰め込んだ作品だ。
そして「50 Century Song」は、その旅の中で見つけた最も美しい風景の一つなのかもしれない。
流行やジャンルに左右されることなく、自分たちだけの音楽を鳴らし続けるHAPPY。
『High Planet Cruise』は、その姿勢が結晶化した、日本のインディーロック史に残る一枚と言えるだろう。