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FCO.『Inc』レビュー|小原綾斗がTempalayの先で鳴らした”バンド”という衝動

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Tempalayのフロントマン・小原綾斗は、これまで常に”更新”を続けてきたミュージシャンだ。

サイケデリックロックを軸に、ヒップホップやエレクトロニカ、ポップスを自在に横断し、日本のオルタナティブシーンを代表する存在へと成長したTempalay。その中心人物である小原が、新たな表現の場として立ち上げたのがFCO.(エフシーオー)である。

もともとは「小原綾斗とフランチャイズオーナー」という名義で活動を開始し、ライブごとにメンバー編成を変えながら神出鬼没に活動を続けてきた。その後、バンド名をFCO.へ改め、本格的なバンドプロジェクトとして歩み始める。

中心となるのはもちろん小原綾斗(Vo/Gt)。

そこへ佐々木集(Ba)、松浦大樹(Dr/saccharin、She Her Her Hers)、加藤成順(Gt/MONO NO AWARE、MIZ)、Kaya Liz(Cho)といった実力派ミュージシャンが集結した。

そして2025年、AAAMYYYらも参加した初のフルアルバム『Inc』を発表。

この作品はTempalayの延長線上ではなく、小原綾斗が”バンド”という形だからこそ鳴らせる音楽を探し続けた、一つの到達点と言える。

Tempalayとは異なる”生身”のグルーヴ

FCO.を初めて聴く人の多くは、Tempalayとの違いに驚くだろう。

Tempalayでは緻密に組み上げられたサウンドデザインや、浮遊感のあるエレクトロニックな質感が作品を支えている。

一方、『Inc』では、演奏そのものが前へ出てくる。

ミニマルなギターリフが何度も繰り返され、ベースとドラムがじわじわとグルーヴを積み重ねていく。

決して派手な展開はない。

しかし、その反復が少しずつ景色を変えていく。

まるでライブハウスの空気をそのまま録音したような、生々しい質感がアルバム全体を包んでいる。

これはTempalayではなく、FCO.だからこそ成立する音楽だ。

『Inc』は”足し算”ではなく”引き算”のアルバム

『Inc』を聴いていると、小原綾斗は新しいものを加えようとしているのではなく、むしろ削ぎ落としているように感じる。

派手なアレンジ。

複雑な展開。

装飾的な音色。

そうした要素を最小限まで削り、残された演奏だけでグルーヴを作り上げていく。

だからアルバムには余白がある。

その余白の中で、ギターの一音、ドラムの揺らぎ、コーラスの響きが自然と浮かび上がる。

参加ミュージシャンはいずれも個性的だが、誰かが主張しすぎることはない。

全員が一つの呼吸で音を鳴らしている。

そのアンサンブルこそが、『Inc』最大の魅力なのだろう。

MVが映し出す”自然体”という美学

FCO.のMVを観ると、そこにもTempalayとの違いが見えてくる。

派手な映像演出やストーリー性を前面に押し出すのではなく、メンバーの演奏や空間そのものを丁寧に切り取っている作品が多い。

カメラは過剰に説明しない。

音楽が流れ、メンバーが演奏し、その場の空気が静かに映し出される。

だからこそ、MVを観ていると”演出された作品”というより、一つのセッションを目撃しているような感覚になる。

FCO.の魅力は、映像が音楽を補完するのではなく、音楽の呼吸をそのまま映像へ写し取っていることにある。

音楽と映像の距離が非常に近いのだ。

小原綾斗が見つけたもう一つの居場所

Tempalayでは、常に新しいサウンドを追求し続けてきた小原綾斗。

しかしFCO.では、その探究心の方向が少し違う。

新しい音を発明するのではなく、「バンドで演奏する」という極めてシンプルな行為を、もう一度見つめ直している。

だから『Inc』は決して派手なアルバムではない。

だが、繰り返し聴くほどに演奏の細部やアンサンブルの美しさが見えてくる。

それは一人のソングライターでは辿り着けない、バンドという共同体だからこそ生まれる音楽だ。

FCO.が提示する現在のオルタナティブ

近年、日本のオルタナティブシーンではジャンルを横断する作品が数多く生まれている。

その中でFCO.は、ジャンルを更新するのではなく、「バンドとは何か」という原点へ立ち返るような作品を鳴らしている。

『Inc』は、ロックでもサイケでもポップでもない。

そのすべてを通過した先で生まれた”演奏”そのもののアルバムである。

Tempalayのファンにとっては新たな一面を知るきっかけとなり、初めてFCO.に触れるリスナーにとっては、小原綾斗という音楽家の本質が見えてくる一枚でもある。

バンドだからこそ生まれる偶然。

人と人が音を重ねることでしか生まれない熱。

『Inc』は、その尊さを静かに、しかし確かな説得力を持って鳴らしている。

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