ノイとデコについて
本記事は、NOISE // DECODE のゆるキャラ ノイ と デコ の対話形式でお届けします。
ノイ は、音楽を感情や情景で感じ取る「感覚派」。夜やコーヒー、散歩と相性がよく、「なんかエモい」「夜に聴きたくなる」といった直感で語ります。
デコ は、曲構成・歌詞・制作背景を読み解く「分析派」。データと構造が好きで、「なるほど、ここがポイントだね」と冷静に解説します。
二人は視点こそ違いますが、音楽への愛は同じです。感じ方と読み方、両方の角度からアルバムの魅力を探っていきます。
はじめに——『Mezmerize』は何の作品か
ノイ: System of a Downの『Mezmerize』、一曲目終わった時点でもう息切れしそうになるんだよね。なのに「Lost in Hollywood」で急にしんみりして、感情の振れ幅がエモとチルどっちつかず。
デコ: 2005年5月17日、American RecordingsとColumbia Recordsからリリースされた第四作目だ。全11曲、約36分。プロデュースはリック・ルービンとギタリストのダロン・マラキアンが担当し、ロサンゼルス周辺の複数スタジオで録音された。同年11月に続く『Hypnotize』と対になる、二部構成アルバムの前半だね。
ノイ: 短いのに情報量えぐくない? 一晩で通し聴くと、頭の中がごちゃごちゃになる。
デコ: その密度が意図的だと思う。バンドは数十曲の候補曲を制作し、ダブルアルバムとして一度に出すのではなく、半年ずつ分けて届ける方針を取った。リック・ルービンは「25曲を一度に届けるより、二作に分けた方が作品を受け止めてもらいやすい」という考えを示していた。ダロン・マラキアンも「25曲入りのCDを渡すのは気が引ける」と説明している。聴き手の集中時間に合わせて、作品を「スプーン・フィード」する——この判断が『Mezmerize』の立ち位置を決めている。

東 LA 発、四人体制の爆発
ノイ: セルジ・タンキアンの声、やっぱり唯一無二だよね。怒鳴ってるのに旋律がある感じ。
デコ: ボーカリストのタンキアン、ギタリストのマラキアン、ベーシストのシャヴォ・オダジアン、ドラマーのジョン・ドルマイアン——ロサンゼルスを拠点とするアルメニア系アメリカ人バンドだ。『Toxicity』(2001年)で世界的な成功を収めたあと、『Steal This Album!』(2002年)を経て本作に至る。
ノイ: でも『Mezmerize』って、ダロンの声がすごく前に出てきた気がする。
デコ: 鋭いところに気づいたね。本作ではマラキアンが多くの曲でタンキアンとほぼ半分ずつボーカルを分担している。楽曲の大部分もマラキアンが作曲しており、バンド内の音楽的重心がより明確になった作品だ。タンキアンの政治的・詩的な語り口と、マラキアンのメロディックな攻撃性——この緊張関係がSOADの核になっている。
イントロから打ち上げ——曲ごとに異なる爆発の形
デコ: アルバムは「Soldier Side – Intro」から始まる。静かなアコースティックの断片が、のちの『Hypnotize』収録の「Soldier Side」へと続く伏線になっている。
ノイ: このイントロ、なんかエモいよね。騒ぐ前に、一回立ち止まらされる感じ。
デコ: 直後の「B.Y.O.B.」で一気に爆発する。この落差がアルバム全体の設計図だ。疾走するリフ、突然のブレイク、タンキアンとマラキアンの掛け合い——SOAD特有の「予測不能さ」が最も凝縮された一曲でもある。
ノイ: 「Why do they always send the poor?」のところ、なんかわかる〜。キャッチーなのに、内容は戦争の話で重い。
デコ: タイトルは一般には「Bring Your Own Bombs」の略と解釈されることが多い。バンド自身は明確な意味を示さず、リスナーに委ねるスタンスを取っている。イラク戦争期の社会批評として広く語られる曲だが、メロディの明瞭さとダンス・ビートの躍動感が、メッセージを直球ではなく身体に届ける。第48回グラミー賞(2006年)で最優秀ハード・ロック・パフォーマンスを受賞した。
笑いと暴力、ディスコとポルノ——矛盾の同居
ノイ: 「Cigaro」って、意味わかんないくらいバカバカしいのに、なぜかリピートしちゃう。
デコ: 短尺でギターリフが異様に記憶に残る一曲。SOADは深刻なテーマとブラック・ユーモアを隣接させる手法を一貫して使うが、本作ではその振れ幅が特に大きい。「Violent Pornography」の冒頭——「It’s a nonstop disco」——も有名だね。
ノイ: あのディスコのフレーズ、曲の他の部分と全然つながってなくて笑う。
デコ: マラキアン自身が「ディスコが大好きなんだ、知らなかったでしょ」とコメントしている。一見するとテーマから外れた一行にも思えるが、こうした脱線が、バンドの「真面目すぎない危うさ」を保っている。構成がいい、というより「構成を壊す勇気」がポイントだね。
ノイ: 「Radio/Video」はKISSへの愛がにじんでるよね。シリアスなバンドなのに、こういう曲あるの好き。
デコ: マラキアンは幼少期にKISSに衝撃を受け、近所のダニーとリサが持っていたポール・スタンレーのソロアルバムがきっかけで音楽にのめり込んだと語っている。本作ではメディア文化と個人的な記憶が交差する——批評と自伝の境界が曖昧な一曲だ。
静かな曲が際立つ——「Question!」と「Lost in Hollywood」
デコ: シングルは「B.Y.O.B.」(2005年3月28日)と「Question!」(2005年7月12日)の二曲。後者はダロン・マラキアンが作曲し、セルジ・タンキアンが作詞を担当した。セルジ・タンキアンを中心としたツインボーカルが印象的だ。
ノイ: 「Question!」、夜に聴きたくなるやつ。静かなのに、不安がじわじわ来る。
デコ: アコースティック・ギターとストリングスが前面に出る構成で、周囲の暴れ曲との対比が際立つ。歌詞は断片的で、確定的な答えを与えない——タンキアン特有の詩的な不安の書き方がここに集約されている。
ノイ: ラストの「Lost in Hollywood」が一番好きかも。5分超えてるのに、最後まで引き込まれる。
デコ: マラキアンがリード・ボーカルを取る終幕曲。ハリウッドへの幻滅と郷愁が交錯し、アルバム全体の騒音のあとに「個人の孤独」を置く。ダロンの父ヴァルタン・マラキアンが手がけたジャケット・アートワークとも呼応する、内省的な締めくくりだね。
批評と記録——2005年を制した前半戦
デコ: 発売直後、アメリカのBillboard 200で初登場1位を記録し、初週に約45万3千枚を売り上げた。Metacriticでは85点(19レビュー)と、「普遍的な高評価」に達している。
ノイ: 地元じゃなくても、当時めちゃくちゃ話題だったよね。友達がみんな「B.Y.O.B.」知ってた。
デコ: 世界各国でアルバムチャート1位を獲得した。同年11月の『Hypnotize』もBillboard 200で1位となり、ビートルズ、2Pac、DMX以来となる「同一年内に二作連続1位」という記録を打ち立てた。ニューメタルやオルタナティヴ・メタルを軸としながら、実験的なアプローチでも知られる——その余白が本作にも引き継がれている。
なぜ今も刺さるのか
ノイ: 2020年代に聴いても、古いとは思わない。むしろ、情報が多すぎる今のほうが、SOADの曲の切り替え方に合ってる気がする。
デコ: テンポチェンジ、突然の静寂、政治と私語の混在——現代の短尺コンテンツとは異なるアルバムという形式を取りながらも、その目まぐるしい展開や情報量の多さは、現代のリスナーの感覚とも不思議なほど共鳴する。戦争、メディア、芸能界——歌詞のテーマも具体的で、抽象度が高すぎない。
ノイ: あと、短い。36分で終わるの、ありがたい。集中力が続かない日でも最後まで行ける。
デコ: 二部作の前半として設計されているので、『Hypnotize』と通して聴くと「Soldier Side」の伏線回収や、全体のテーマの補完が見えてくる。まず『Mezmerize』単体で衝撃を受け、あとから後編で全体像が完成する——この順番も、2005年当時のリリース戦略そのものだね。
どう聴くといいか
ノイ: まず通しで。一曲ずつ飛ばすと、静かな曲の効果が半減する。音量は少し大きめがいい。小さく聴くと、ギターのうねりが伝わらない。
デコ: 「B.Y.O.B.」と「Question!」だけ知っている場合は、あえてその間の暴れ曲——「Revenga」「Cigaro」「Violent Pornography」——を意識して聴くと、アルバムの設計が見えてくる。次に『Toxicity』と比較すると、本作でマラキアンの役割がいかに拡大したかもわかる。余裕があれば『Hypnotize』へ続けてほしい。
ノイ: 夜に聴くと、やっぱりちょっと怖い。でも、その怖さがなんかエモいよね。
編集部より
『Mezmerize』は36分の中に笑い、怒り、静寂、批評を詰め込んだ、SOADらしい「過剰なほど誠実な」アルバムです。ノイが感じた感情の振れ幅も、デコが解いた二部作としての設計も、同じ結論に向かいます。ニューメタルの文脈を知らなくても、まずは一気に聴いて、そのあと『Hypnotize』で物語の後半に入る——その順番が、いちばん本作の輪郭をはっきりさせてくれます。