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【ノイデコ解説 #20】三十六曲の革命——The Clash『Sandinista!』

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ノイとデコについて

本記事は、NOISE // DECODE のゆるキャラ ノイ と デコ の対話形式でお届けします。

ノイ は、音楽を感情や情景で感じ取る「感覚派」。夜やコーヒー、散歩と相性がよく、「なんかエモい」「夜に聴きたくなる」といった直感で語ります。

デコ は、曲構成・歌詞・制作背景を読み解く「分析派」。データと構造が好きで、「なるほど、ここがポイントだね」と冷静に解説します。

二人は視点こそ違いますが、音楽への愛は同じです。感じ方と読み方、両方の角度からアルバムの魅力を探っていきます。

はじめに——『Sandinista!』は何の作品か

ノイ: The Clashの『Sandinista!』、36曲って聞いたとき「マジ?」って思ったんだけど、通しで聴き始めると、なんかわかる〜、止まらなくなるんだよね。

デコ: 1980年12月12日、CBS Records(米国ではEpic)からリリースされた第四作目のスタジオ・アルバムだ。三重LP(CD版は2枚組)、全36曲、約145分。1面6曲ずつ、6面構成——パンク・ロックの常識をはるかに超えた分量だ。

ノイ: 前の『London Calling』がすでに二重盤だったのに、さらに増やすって、大胆すぎない?

デコ: その大胆さが本作の性格そのものだ。ジョー・ストラマーは、CBSが『London Calling』の二重盤リリースに難色を示した一方で、ブルース・スプリングスティーンの二重盤『The River』(1980年)をすぐに出したことへの反発もあったと語っている。ミック・ジョーンズは「石油リグや北極の基地で、レコード屋に定期的に行けない人のための作品」と説明した。過剰であり、意図的な過剰でもある。


タイトルと制作——ニカラグアから世界各地へ

ノイ: タイトル、ニカラグアの革命のことだよね。パンクバンドがそこまで政治的になるの、なんかエモい。

デコ: タイトルはニカラグアのサンディニスタ民族解放戦線に由来する。政治的連帯を示す作品名として知られる。英国盤のカタログ番号「FSLN1」も、同組織のスペイン語略称に由来する。政治と音楽が、作品名の段階ですでに交差している。

ノイ: 録音場所もバラバラだったって聞いた。

デコ: 1980年2月から8月にかけて、ロンドン、マンチェスター、ニューヨーク、ジャマイカのキングストンなど複数のスタジオで録音された。プロデュースはバンド自身(主にジョーンズとストラマー)、エンジニアはビル・プライスが担当した。レゲエ・プロデューサーのマイキー・ドレッドがダブ・ミックスを手がけ、レゲエ、ダブ、ファンク、ジャズ、ゴスペル、カリプソ、ラップなど、多彩な音楽性が36曲に散らばっている。


クレジットと声——バンドの民主化

デコ: 本作から、楽曲クレジットはストラマー/ジョーンズの個人名義から「The Clash」へのバンド名義に統一された。四人全員がリード・ボーカルを担当する曲があり、ドラマーのトッパー・ヘッドン(「Ivan Meets G.I. Joe」)、ベーシストのポール・シムノン(「The Crooked Beat」)も歌っている。

ノイ: 子どもの声が入ってる曲、好きなんだよね。「Career Opportunities」のカバー版とか。

デコ: キーボード奏者のミッキー・ギャラガーの息子ルークとベンが、デビュー作収録の「Career Opportunities」を歌い、ギャラガー家の子どもたちの声が「Broadway」のエピローグで『London Calling』の「The Guns of Brixton」の一節を担っている。過去の楽曲を子どもの声で再訪する——パンクの未来を音声的に示す設計だ。

ノイ: エモとチルどっちつかず、ってやつ。子どもが歌ってるのに、内容は仕事がないって話でしょ?

デコ: その矛盾がClashらしい。本作は「過剰」であると同時に、個々の曲は短いものが多い。36曲を通して、笑い、怒り、ダブ、政治、遊びが交互に現れる。


六面の地図——どこから聴き始めるか

デコ: 1面目は「The Magnificent Seven」から始まる。約5分のファンク・ロックで、ニューヨークでの録音セッションの成果が色濃い。続く「Hitsville UK」はモータウンへのオマージュ、「Junco Partner」はニューオーリンズ・リズム&ブルースのカバーだ。

ノイ: 「The Magnificent Seven」、夜に聴きたくなるやつじゃないけど、歩きたくなる。ビートが体に来る。

デコ: 4面目の「The Call Up」は徴兵への抗議として知られ、シングルとしてもリリースされた(1980年11月28日)。同じ面の「Washington Bullets」は、チリ、ニカラグア、キューバ、アフガニスタン、チベットなど世界各地の政治を歌詞に織り込んだ、ストラマーにとって最も具体的な政治声明のひとつとされる。

ノイ: 6面目、ダブとバージョン曲ばっかりで、最初は「何これ?」って思った。

デコ: 6面目はダブとリミックスが集中する。「Silicone on Sapphire」は「Washington Bullets」のダブ版、「Version Pardner」は「Junco Partner」のダブ版——アルバム全体の再解釈として機能している。構成がいい、というより「構成を意図的に崩す」勇気が本作の核心だね。


低価格とチャート——成功の別の形

デコ: バンドは三重LPを低価格で届けたいと考え、英国では初版の定価を5.99ポンドとした。その代わり、英国での初回プレス分については印税を放棄し、それ以外でも印税の半分を削減した。

ノイ: 自分たちの取り分を削ってまで?

デコ: その覚悟が、作品の「革命性」を商業面でも体現している。英国アルバム・チャートでは最高19位——Clashの英国でのチャート成績としては低い部類に入る。一方で米国Billboard 200では24位、カナダやニュージーランドでは3位と、地域によって反応は大きく異なった。

ノイ: 英国ではあまり評価されなかったんだ。

デコ: 当時の評価は賛否が大きく分かれた。一方、米国のローリング・ストーン誌やヴィレッジ・ヴォイス紙のロバート・クリスガウは高く評価し、1981年のPazz & Jop批評家投票では年間最優秀アルバムに選ばれた。発売直後の商業成績と、批評的な再評価のあいだに時間差がある——本作の運命だ。


なぜ今も刺さるのか

ノイ: 2020年代に聴いても、ジャンルが多すぎて飽きない。プレイリスト文化に、なんか先取りしてる感じ。

デコ: 1枚のアルバムに複数のジャンルを詰め込む作法は、現在のストリーミング時代の聴き方にも不思議と合う。ただし、36曲を一度に消化する必要はない。面ごと、気になる曲から入る——それが本作の正しい聴き方だと思う。

ノイ: 派手なヒット曲一本じゃないのに、ずっと参照されるのがすごいよね。

デコ: チリのバンドLos Prisionerosが本作に影響を受けたと語っているほか、2020年のローリング・ストーン誌「史上最高のアルバム500」では323位に選出された。過剰さを弱みではなく個性として貫いた——その姿勢が、パンクの枠を超えた実験として今も参照される。


どう聴くといいか

ノイ: まず1面目だけ。6曲、約23分。それで合わなければ無理しないでいい、って思った。

デコ: 「The Magnificent Seven」「The Call Up」「Washington Bullets」だけ知っている場合は、それぞれが属する面を通して聴くと、アルバムの設計が見えてくる。次に『London Calling』と比較すると、二重盤から三重盤へ、そしてジャンルの幅がどう広がったかもわかる。同梱のリリックシート「The Armagideon Times No. 3」が手元にあれば、歌詞と漫画を眺めながら聴くのもおすすめだ。

ノイ: 散歩しながら1面目、夜に4面目、くらいが自分には合ってた。エモとチルどっちつかず、が曲ごとに違う。


編集部より

『Sandinista!』は、The Clashが「過剰」を武器にパンクの境界を押し広げた、三十六曲の記録です。ノイが感じたジャンルの渦も、デコが解いた三重LPという形式の意味も、同じ結論に向かいます。全部を一度に聴く必要はありません。まず1面から——そこで何かが刺さったら、残りの五面は、時間をかけて開いていけばいい。

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