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【ノイデコ解説 #21】母と継父への手紙——Sufjan Stevens『Carrie & Lowell』

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ノイとデコについて

本記事は、NOISE // DECODE のゆるキャラ ノイ と デコ の対話形式でお届けします。

ノイ は、音楽を感情や情景で感じ取る「感覚派」。夜やコーヒー、散歩と相性がよく、「なんかエモい」「夜に聴きたくなる」といった直感で語ります。

デコ は、曲構成・歌詞・制作背景を読み解く「分析派」。データと構造が好きで、「なるほど、ここがポイントだね」と冷静に解説します。

二人は視点こそ違いますが、音楽への愛は同じです。感じ方と読み方、両方の角度からアルバムの魅力を探っていきます。

はじめに——『Carrie & Lowell』は何の作品か

ノイ: Sufjan Stevensの『Carrie & Lowell』、最初の一曲目からなんかエモいよね。派手じゃないのに、胸の奥がじわっとする。

デコ: 2015年3月31日、自身のレーベルAsthmatic Kitty Recordsからリリースされたスタジオ・アルバムだ。全11曲、約44分。前作『The Age of Adz』(2010年)が電子音楽と壮大な構成に傾いていたのに対し、本作はスパースなインディー・フォークへと回帰した。プロデュースはスティーヴンス自身とトーマス・バートレット(Doveman)が担当した。

ノイ: タイトル、誰の名前なの?

デコ: スティーヴンスの母キャリーと、継父ローウェル・ブラムスに由来する。ローウェルはAsthmatic Kittyの共同設立者でもある。ジャケットのポラロイド写真には、姉ジャミラが子どもの字で書いた「Carrie & Lowell」というキャプションが添えられている——10周年記念版でその全体像が公開された。アルバムは、家族の記憶を作品名の段階から可視化している。


喪失と記録——2012年から2014年へ

ノイ: このアルバム、悲しい出来事があって作られたって聞いた。

デコ: 2012年、母キャリーが胃癌で亡くなった。スティーヴンスは、精神的な問題や物質依存に苦しみながら、1歳のときに息子を残して去った母との関係を、本作の歌詞で掘り下げている。幼少期にキャリーとローウェルとともにオレゴンへ旅行した記憶も、複数の曲に織り込まれている。

ノイ: なんかわかる〜。愛してたけど、複雑だった、って感じがする。

デコ: スティーヴンス自身は、本作を「悲しみを意味づけ、整理するため」に書き始めたと語っている。ただし録音は癒しにはならなかったとも述べており、「暗闇の一年だった」と振り返っている。バートレットは自身もがんで亡くなった兄を抱えており、スティーヴンスの「お前の曲だ、お前のレコードだ」と厳しく向き合った存在だったとされる。背景を知ると深い、まさにこの作品のことだね。


録音——複数スタジオと、ホテルでの一曲

デコ: 2014年に録音された。ブルックリンのAsthmatic Kittyオフィス、マンハッタンのパット・ディレット・スタジオ、オレゴン州ポートランドのFlora Recording & Playback、オクラホマ州ノーマンのBlackwatch Studios、ウィスコンシン州オークレアのApril Base Studios——場所は分散しているが、音像は一貫して薄く、近い。

ノイ: ホテルで録音したって聞いたけど、すごい親密な感じする。

デコ: 「Blue Bucket of Gold」のボーカルは、オレゴン州クラマスフォールズのホテル客室でiPhoneを使って録音された。ローファイでありながら、丁寧にミックスされている。ゲストにはショーン・キャリー、ローラ・ヴァース、ケイシー・フーベルトらが参加している。派手なアレンジを排し、声とギターが前面に出る——『Illinois』(2005年)や『Seven Swans』(2004年)の初期フォーク期を想起させるが、歌詞の個人性は本作のほうがはるかに強い。


十一曲の流れ——静かな始まりから開かれた終わりへ

デコ: アルバムは「Death with Dignity」から始まる。短いイントロのギターと、ささやくような声——「Spirit of my silence, I can hear you」——が本作のトーンを設定する。

ノイ: 「Should Have Known Better」、夜に聴きたくなるやつ。ピアノ入るところ、しんみりする。

デコ: バートレットのピアノが加わる一曲で、シングルとしてもリリースされた(2015年3月11日)。中盤の「Eugene」は約2分半と短く、オレゴンのユージーンを舞台にした具体的な情景が描かれる。「Fourth of July」は、母との会話を想起させる歌詞で知られ、後年、ゲームや映像作品などでも使用され、再評価が進んだ。

ノイ: 「Fourth of July」の「We’re all gonna die」、なんかエモいよね。怖いのに、優しい。

デコ: タイトル曲「Carrie & Lowell」は、家族の旅の断片を綴った静かな一曲。ラスト前の「No Shade in the Shadow of the Cross」は、信仰と喪失が交差する。締めくくりの「Blue Bucket of Gold」は、静かなギターから徐々に広がり、アルバム全体の閉じ方として開かれた余韻を残す。構成がいい、というより、感情の波が小さく、しかし確実に積み上がる設計だ。


批評と記録——静かな成功

デコ: Metacriticでは90点(40レビュー)と、普遍的な高評価を記録した。2015年の年間ベスト・リストに頻繁に名を連ね、PitchforkやThe Guardianなど複数のメディアが上位に挙げた。米国Billboard 200で初登場10位、初週約5万1千枚のセールスを記録した。

ノイ: 派手なヒット曲ってわけじゃないのに、ちゃんと届いてるんだね。

デコ: 口コミとNPRでの先行配信などが拡散に寄与した面もある。現在ではRIAAゴールド認定を受け、「Fourth of July」はプラチナに達している。10周年記念版には未発表曲7曲と、スティーヴンス自身が手がけた40ページのアートブックが収められた。静かな作品が、時間をかけて文化のなかに根ざしていく——本作の軌跡だ。


なぜ今も刺さるのか

ノイ: 2020年代に聴いても、古く感じない。むしろ、騒がしい日常のあとに聴くと、呼吸が整う。

デコ: 喪失、複雑な家族関係、愛と怒りの共存——テーマは普遍的だが、スティーヴンスの語りは極めて具体的だ。ビデオ店に置き去りにされた記憶、バーのカウンター、オレゴンの風景——抽象度が低いから、聴く人の記憶に接続しやすい。

ノイ: エモとチルどっちつかず、ってこのアルバムのことかも。悲しいのに、きれい。

デコ: サイトのキャッチコピー「歪みの中にある感情を、言葉にする」——本作は、その言葉を最も素直に体現した記録のひとつだと思う。派手な演出を排した分、歌詞と旋律の歪みが、そのまま残っている。


どう聴くといいか

ノイ: まず通しで。一曲ずつ飛ばすと、静かな曲のつながりがわからない。音量は小さめでもいいけど、静かな部屋がいい。

デコ: 「Fourth of July」だけ知っている場合は、前後の「Eugene」と「The Only Thing」をセットで聴くと、アルバムの核心が見えてくる。次に『The Age of Adz』と比較すると、電子音楽からフォークへ戻った意味がわかる。初めてのスティーヴンスなら本作から入るのも、『Illinois』から入るのも、どちらも有効だ——本作は個人的な喪失、『Illinois』はアメリカの神話という、入口が異なる。

ノイ: 散歩しながら聴くと、街が少し遠く見える。コーヒーと一緒だと、なんかわかる〜、しみる。


編集部より

『Carrie & Lowell』は、Sufjan Stevensが母への複雑な感情を、静かなフォークに託した喪失の記録です。ノイが感じた薄い音像の奥の重さも、デコが解いた家族の物語も、同じ結論に向かいます。派手さを求めるなら別の作品を、言葉と静寂の温度を求めるなら、まずこの十一曲に身を委ねてほしい一枚です。

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