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Jesus Weekend『murmurs』考察|囁きの向こう側で鳴り続ける音楽

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日本のインディーシーンには、不思議な存在感を持ったアーティストがいる。

大規模なフェスに出演するわけでもない。

チャートを賑わせるわけでもない。

それでも一部のリスナーの記憶に深く残り続ける。

Jesus Weekendもそんな存在のひとつだ。

2011年前後、ガールズ3ピースバンドとして活動を開始したJesus Weekendは、当時のインディーシーンにおいて独特な立ち位置にいた。

シューゲイズ。

ドリームポップ。

インディーロック。

ローファイポップ。

そうした要素を自然に溶け込ませながら、日本語ロックとも海外インディーとも少し違う音楽を鳴らしていた。

SNSが現在ほど発達していなかった時代にも関わらず、その名前は口コミによって広がっていく。

ライブハウスで観た人が誰かに勧める。

音源を聴いた人がSNSで呟く。

そんな草の根的な広がり方だった。

しかし活動を続ける中で編成や活動形態は変化していく。

拠点の移動。

メンバー構成の変化。

制作環境の変化。

そして現在のJesus Weekendは、バンドという形態からさらに自由になり、ソロプロジェクトとして作品制作を続けている。

興味深いのは、その変化によって音楽性の核が失われなかったことだ。

むしろ余計なものが削ぎ落とされ、Jesus Weekendという表現の本質がより鮮明になったようにも思える。

その到達点のひとつがEP『murmurs』である。


『murmurs』というタイトル

murmurとは「囁き」や「ざわめき」を意味する言葉だ。

このタイトルは作品全体を象徴している。

ここで鳴っている音楽は決して大声ではない。

主張する音楽ではなく、漂う音楽である。

近年のインディーシーンでは音圧や情報量を増やす方向の作品も少なくない。

しかし『murmurs』はその逆を行く。

音数を減らす。

余白を残す。

静寂を活かす。

その結果として生まれるのは、耳を澄ませた人だけが気付ける美しさだ。


音響としてのシューゲイズ

Jesus Weekendをシューゲイズとして紹介することはできる。

しかしそれだけでは不十分だろう。

90年代のMy Bloody ValentineやSlowdiveが作ったシューゲイズは、轟音によって現実感覚を歪ませる音楽だった。

一方で『murmurs』は轟音を必要としない。

むしろ微細な残響や質感によって聴覚を揺らしている。

ギターは壁にならない。

霧になる。

空間を埋めるのではなく滲ませる。

その感覚は現代のドリームポップやアンビエントにも近い。


Beach House以降の感覚

『murmurs』を聴いていると、しばしばBeach Houseを連想する。

それは楽曲構造というよりも時間感覚の問題だ。

多くのポップソングが展開によって聴かせるのに対して、『murmurs』の楽曲は滞在することを目的としている。

サビへ向かうのではない。

音の中に居続ける。

これは近年のアンビエントやドリームポップに共通する美学である。


ローファイという選択

作品全体から感じられるのはローファイな質感だ。

だがそれは技術不足によるものではない。

意図的な選択である。

近年ではDAWによってどこまでも綺麗な音を作ることができる。

だからこそ、少し曇った音。

少し歪んだ質感。

少し遠くにいるようなボーカル。

そうした要素が逆にリアリティを持つ。

『murmurs』の魅力は、この不完全さにある。


バンドから個人へ

Jesus Weekendのキャリアを振り返ると、

最も興味深いのは編成の変化そのものかもしれない。

通常、バンドからソロプロジェクトへ移行すると音楽は小さくなる。

演奏の厚みが減る。

スケール感が失われる。

しかし『murmurs』では逆のことが起きている。

人数は減った。

だが音楽はむしろ広がっている。

それは楽器の数ではなく、

空間の使い方によって成立しているからだ。


総評|『murmurs』は風景のような作品だ

『murmurs』には派手な瞬間がない。

決定的なサビもない。

劇的な展開も少ない。

だが何度も聴いてしまう。

それはこの作品が楽曲集というより風景集に近いからだ。

朝の光。

夕方の空気。

夜の街灯。

誰もいない部屋。

そうした景色の記憶と結びつきながら、このEPは少しずつ身体に染み込んでいく。

2011年頃、ライブハウスで噂になっていたガールズバンドは、長い時間を経てより静かで、より深い場所へ辿り着いた。

『murmurs』はその軌跡を記録した作品であり、同時にJesus Weekendというプロジェクトの本質を最も美しく映し出した作品なのかもしれない。

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