いま最も面白い日本のインディーロックバンド、Khakiとは何者なのか
近年の日本のインディーシーンにおいて、独自の存在感を放っているバンドのひとつがKhakiだ。
2018年に早稲田大学のバンドサークルで結成された5人組であり、東京を拠点に活動している。メンバー全員が作詞・作曲を担当し、音源制作やMV制作、グッズ展開に至るまで自主性を重視した活動を続けてきた。
Khakiの魅力は一言では説明しにくい。
日本語ロック、アートロック、プログレッシブロック、ジャズ、フォーク、ポップス。
それらを雑食的に吸収しながらも、決して難解さだけに向かわない。
初期作『Janome』では複雑な楽曲構造と文学的な歌詞世界を提示し、その後の『頭痛』『Undercurrent』では実験性をさらに推し進めた。特に『Undercurrent』は再生順によって楽曲の印象が変化するユニークな作品として話題になった。
そして2025年の2ndアルバム『Hakko』では、彼らの音楽性が大きく開花する。
ジャンルを横断する自由な発想を持ちながらも、より多くのリスナーへ届く普遍性を獲得した作品だった。LIQUIDROOMで開催されたワンマンライブ「ソロ・コンサート」の成功も含め、Khakiは確実に次のステージへ進み始めていた。
そんな彼らが約1年ぶりに発表した新曲が「シティホテル」である。
『Hakko』のその先へ
興味深いのは、「シティホテル」が『Hakko』の延長線上にありながらも、明らかに違う景色を見せていることだ。
リリース情報では、本作について「ポップネスを追求した楽曲」と説明されている。『Hakko』で見せた複雑な構築美を残しながらも、今回はよりシンプルに、より開かれたメロディへ向かっている。
しかしそれは単純化ではない。
Khakiらしい屈折した視点や奇妙な風景描写はそのまま残されている。
むしろ難解さを削ぎ落としたことで、彼らの持つ独特の美意識が以前より鮮明に浮かび上がっている。
「シティホテル」が描く郊外のノスタルジア
作詞・作曲を担当した中塩博斗は、この曲について「郊外というものの持つ特有の風合い」をテーマにしたと語っている。
街の至る所に転がる無記名の風景。
そこに凝固した記憶。
懐かしさと忘却が同時に存在する感覚。
「シティホテル」はそうした曖昧な感情を描いた楽曲だという。
実際、歌詞を追うと非常に映画的な風景が現れる。
リネン室が少しだけ覗くホテル。
老人しかいない街。
第三緑道。
駅前広場の大型ビジョン。
これらは観光地でもなければドラマチックな場所でもない。
どこにでもある郊外の風景だ。
しかしKhakiは、その何気ない景色の中に時間の堆積を見つけ出している。
忘れられた街角や色褪せた看板を眺めた時に感じる不思議な感傷。
この曲はそうした感覚を音楽として定着させている。
音楽的考察──Khaki史上もっとも”歌”が際立つ楽曲
音楽的に最も印象的なのはメロディの強さだ。
これまでのKhakiは楽曲構造の面白さや展開の意外性に注目されることが多かった。
一方で「シティホテル」はまず歌が耳に残る。
流麗なコード進行の上を滑るように進むメロディは、70年代の日本語フォークやシティポップの系譜すら感じさせる。
ただし懐古趣味では終わらない。
ギターの音色には現代インディーロック的な乾いた質感があり、リズム隊も必要以上に感情を煽らない。
だからこそ歌詞に描かれる風景が過剰なノスタルジーに陥らず、現代的なリアリティを保っている。
また、「マイダーリン」という古風なフレーズを繰り返し用いる手法も興味深い。
どこか昭和歌謡のようでありながら、その言葉が置かれる風景は極めて現代的だ。
この時代感覚のズレが、Khaki特有のユーモアと詩情を生み出している。
Khakiの新たな代表曲になるかもしれない
「Undercurrent」が実験性を示した作品なら、
「Hakko」は総合力を証明した作品だった。
そして「シティホテル」は、その先にあるKhakiの新しい可能性を示している。
難解さや技巧を見せつけるのではなく、日常の風景や記憶の質感をポップソングとして鳴らすこと。
それはKhakiにとって新たな挑戦でもある。
郊外の空気。
忘れかけた記憶。
土曜日の午後の退屈。
そうした誰もが知っている感覚を、Khakiは独自の言葉とサウンドで特別なものへ変えてしまう。
「シティホテル」は単なる1年ぶりの新曲ではない。
Khakiというバンドが、さらに多くのリスナーへ届くための入口になるかもしれない一曲だ。