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カネコアヤノからkanekoayanoへ──『石の糸』が刻んだ新しいバンドのかたち

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2025年、kanekoayanoは1stアルバム『石の糸』を発表した。

「1stアルバム」と聞くと違和感を覚える人もいるかもしれない。

なぜならカネコアヤノはすでに日本のインディーシーンを代表する存在であり、『祝祭』『燦々』『よすが』『タオルケットは穏やかな』など数々の名作を世に送り出してきたからだ。

しかし『石の糸』は確かに“1stアルバム”なのである。

それはソロアーティスト「カネコアヤノ」ではなく、バンド「kanekoayano」としての最初のアルバムだからだ。

横浜の弾き語りから武道館へ

2010年代初頭、カネコアヤノは弾き語りのシンガーソングライターとして活動を開始した。

フォーク、ブルース、ガレージロックを自由に横断する独特な楽曲と、飾らない言葉で綴られる生活感。

決して派手ではないが、一度耳にすると忘れられない歌声によって、口コミで支持を広げていった。

転機となったのは2018年の『祝祭』だろう。

以降、『燦々』『よすが』と傑作を連発し、日本武道館公演を成功させるまでに成長した。

それでも彼女の音楽は、巨大な会場に合わせてスケールアップするのではなく、むしろ個人の生活や感情を見つめ続けていた。

だからこそ多くのリスナーは、自分だけの音楽としてカネコアヤノを愛したのだ。

「カネコアヤノ」ではなく「kanekoayano」

『石の糸』最大のポイントはここにある。

2024年以降、カネコアヤノはバンド名義「kanekoayano」を本格始動させた。

ギターの林宏敏、ベースのtakuyaiizukaを中心に長期間のプリプロダクションを重ね、さらにドラムのSEI NAGAHATA、パーカッションの宮坂遼太郎を加えた5人編成で制作された作品である。

重要なのは、これが単なるバックバンドではないことだ。

これまでの作品でもバンドアンサンブルは存在していたが、最終的な重心は常にカネコアヤノ個人にあった。

しかし『石の糸』では違う。

楽曲そのものがバンドの呼吸で作られている。

歌を支える演奏ではなく、演奏そのものが歌と同じ重みを持っている。

この変化はキャリア最大級の転換点と言えるだろう。

1. noise

アルバムの幕開けとして象徴的な一曲。

タイトル通りノイズがテーマだが、それは破壊的な轟音ではなく、音楽の外側にある空気の揺らぎを取り込むようなノイズだ。

『石の糸』全体が目指す方向性を最初に提示している。

2. 太陽を目指してる

従来のカネコアヤノらしいメロディを残しながらも、リズム隊が楽曲を前へ押し出していく。

ソロ作品なら歌中心だった部分を、バンド全体で引っ張っていく構造になっている。

3. 僕と夕陽

夕暮れの情景が浮かぶミッドテンポ曲。

ギターの余白が美しく、フォークロックからサイケデリアへゆっくりと溶けていく感覚がある。

4. 日の出

「夕陽」の次に「日の出」が配置される構成も興味深い。

時間軸が循環するような感覚があり、このアルバムが直線的な物語ではなく風景の連続であることを示している。

5. ラッキー

再録曲。

以前よりも演奏の自由度が増し、よりバンドらしい生命力を獲得した。

原曲の良さを壊さずにアップデートすることに成功している。

6. さびしくない

こちらも再録。

カネコアヤノ時代の孤独感が、kanekoayanoでは共同体の温度へ変換されているように聴こえる。

同じ曲でありながら意味が変わっている。

7. 難しい

アルバム中盤のハイライト。

歌詞の曖昧さと演奏の緊張感が共存している。

バンドとしての成熟が最も現れている楽曲の一つだろう。

8. WALTZ

タイトル通りワルツを基調としながらも、単純な三拍子には収まらない。

揺れ続けるリズムが不思議な浮遊感を生み出している。

近年のカネコアヤノ作品の中でも特に実験的な楽曲だ。

9. 石と蝶

アルバムタイトルを象徴する楽曲。

重さと軽さ。

静止と飛翔。

相反するものが共存している。

まさにkanekoayanoというバンドの現在地を示しているようだ。

10. 水の中

アルバムを締めくくる名曲。

音が徐々に溶けていくような終わり方は、作品全体を通して描かれてきた風景を静かに閉じる。

聴き終えたあともしばらく余韻が残る。

『石の糸』はバンド誕生の記録である

『石の糸』を聴いていて感じるのは、「カネコアヤノがバンドを始めた作品」ではないということだ。

むしろ長年続いてきたバンドの最初の傑作を聴いているような感覚に近い。

公開情報によれば、本作は1年以上のプリプロダクションを経て完成したという。

その時間があったからこそ、個人の表現をバンドへ拡張するのではなく、バンドという生き物そのものを作り上げることができたのだろう。

近年のライブでは、よりノイジーで実験的な演奏への変化を指摘するファンも多い。

『石の糸』はその変化の出発点でもある。

カネコアヤノの新作ではなく、kanekoayanoという新しいバンドの誕生を記録したアルバム。

だからこそ、この作品は彼女のキャリアの中でも特別な意味を持つ一枚なのだ。

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