Music

小山田壮平はなぜ歌い続けるのか──『andymori』から「夕暮れの百道浜」まで続く、変わらない風景

music

日本のロックシーンには、その時代を象徴するバンドが存在する。

2000年代後半から2010年代前半にかけてのインディーロックを語るうえで、そのひとつが間違いなくandymoriだった。

2007年に結成されたandymoriは、パンク、フォーク、ガレージロック、そして日本語ポップスを独自の感覚で融合しながら、短い活動期間のなかで圧倒的な存在感を残した。中心人物である小山田壮平は、日常の風景や若さゆえの焦燥感を、驚くほどまっすぐな言葉で描き出すソングライターとして支持を集めた。

2014年の解散後、小山田はALやソロ活動へと歩みを進める。

そして2026年、新曲「夕暮れの百道浜」を発表した。約2年ぶりとなる新曲は、地元・福岡の景色を歌った穏やかなミドルテンポナンバーとして届けられている。舞台『見上げんな!』のために書き下ろされた楽曲でもあり、百道浜、大濠公園、桜坂といった福岡の風景が歌詞のなかに登場する。

だが、この曲を聴いていると気づく。

小山田壮平は変わったようでいて、実は何も変わっていない。


『andymori』という青春の爆発

2009年にリリースされた1stアルバム『andymori』は、日本のインディーロック史に残る一枚だ。

当時の国内ロックシーンは、オルタナティブやエモ、ポストロックなどが広がりを見せる一方で、ここまで剥き出しの「青春」を鳴らすバンドは少なくなっていた。

しかしandymoriは違った。

ギター、ベース、ドラム。

最低限の編成。

余計な装飾はない。

だが、その演奏には信じられないほどの疾走感があった。

まるで自転車で坂道を下るようなスピード。

転びそうな危うさ。

それでも前へ進まずにはいられない衝動。

それらすべてがアルバム全体に封じ込められている。


名盤と呼ばれる理由

『andymori』が今も語り継がれる理由は単純ではない。

メロディが良いからだけではない。

演奏が上手いからでもない。

最大の理由は「若さの記録」として完成されていることだ。

例えば海外ではThe LibertinesやThe Strokesの初期作品がそうであるように、その時代にしか鳴らせない衝動が存在する。

『andymori』にもそれがある。

小山田壮平の歌詞には、特別な言葉は出てこない。

街。

恋人。

友人。

電車。

夜。

誰もが見たことのある風景ばかりだ。

しかし、その平凡な景色が圧倒的な速度で駆け抜けていく。

だから聴き終わったあとに残るのは物語ではなく感情だ。

「あの頃」に戻りたくなる感覚。

そして二度と戻れないことへの切なさ。

それこそが『andymori』の本質であり、多くのリスナーがこの作品を名盤と呼ぶ理由なのだろう。


ソロになって見えてきた景色

andymori時代の小山田壮平は常に走っていた。

曲も速い。

言葉も多い。

感情も激しい。

しかしソロになった現在は違う。

歩くように歌う。

景色を眺めながら歌う。

焦ることなく、自分の人生そのものを歌にしている。

その変化は近年の作品群でも感じられたが、「夕暮れの百道浜」では特に顕著だ。


「夕暮れの百道浜」が描くもの

「夕暮れの百道浜」は、故郷・福岡への愛情をまっすぐに描いた楽曲だ。百道浜や大濠公園、桜坂など具体的な地名が登場し、失われた時間や大切な人との記憶を優しく振り返る内容となっている。

音楽的には非常にシンプルだ。

アコースティックギターを中心にした穏やかなアレンジ。

派手な展開もない。

サビで劇的に盛り上がるわけでもない。

しかし、この「何も起きなさ」が素晴らしい。

小山田壮平はここで若さを歌っていない。

青春を歌っていない。

人生を歌っている。

「夢は破れたかもしれない でも君がいる」というフレーズに象徴されるように、この曲には成功や挫折を超えた地点から見える景色がある。

かつてのandymoriなら、夢を追いかける途中を歌っていたかもしれない。

だが今の小山田は違う。

夢が叶わなかった人のことも知っている。

思い通りにならない人生も知っている。

それでもなお、大切な人と夕暮れの海を歩くことの美しさを歌う。

そこにこの曲の強さがある。


青春の終わり、その先へ

『andymori』は青春のアルバムだった。

一方で「夕暮れの百道浜」は、その青春を通り過ぎたあとに作られた歌だ。

だからこそ両者は対照的でありながら、どこかで繋がっている。

どちらにも共通しているのは、小山田壮平が「人の暮らし」を信じ続けていることだ。

特別なヒーローではない。

特別な成功者でもない。

街を歩き、恋をして、失敗して、それでも明日を生きる人たち。

彼が歌い続けてきたのは、ずっとそういう人たちだった。

『andymori』が青春の記録だとするなら、「夕暮れの百道浜」は人生の記録なのかもしれない。

そしてそのどちらにも、小山田壮平という稀有なソングライターの誠実さが刻み込まれている。

同じタグの記事

Next Read

次に読むべき記事

Back to Feature

今号の表紙へ戻る

VIEW FEATURE →