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【ノイデコ解説 #8】Radiohead『OK Computer』──世紀末の不安を、53分に圧縮した

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ノイとデコについて

本記事は、NOISE // DECODE のゆるキャラ ノイ と デコ の対話形式でお届けします。

ノイ は、音楽を感情や情景で感じ取る「感覚派」。夜やコーヒー、散歩と相性がよく、「なんかエモい」「夜に聴きたくなる」といった直感で語ります。

デコ は、曲構成・歌詞・制作背景を読み解く「分析派」。データと構造が好きで、「なるほど、ここがポイントだね」と冷静に解説します。

二人は視点こそ違いますが、音楽への愛は同じです。感じ方と読み方、両方の角度からアルバムの魅力を探っていきます。

まず、一枚の輪郭

デコ: 今日はRadioheadの3rdアルバム『OK Computer』(1997)だね。1995年9月4日に録音された「Lucky」を除き、1996年7月から1997年3月6日まで、Canned Applause(オックスフォードシャー)、St Catherine’s Court(バース)、The Church(ロンドン)で録音。Nigel GodrichとRadioheadの共同プロデュース。Parlophone/Capitol Recordsから、1997年にリリース——日本では5月21日、イギリスでは6月16日、アメリカでは7月1日と、地域によって日付が異なる。全12曲、約53分。

ノイ: 53分って、長いけど引き込まれる。一曲ずつ違う世界に入る感じ。

デコ: 前作『The Bends』(1995)の内省的なギター・ロックから距離を置き、より抽象的な歌詞と、重なった音のレイヤーを追求した。EMIは『The Bends』路線を期待していた一方で、バンドは意図的に別方向へ進んだ、とEd O’Brienは振り返っている。EMIは当初、商業性に懸念を持っていたが、英国チャート1位、全米21位と、バンドにとって当時最大の成功となった。


タイトルと、制作の場所

デコ: タイトル「OK Computer」は、『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズで耳にしたフレーズから着想を得た、と語られている。1996年のツアー中、ツアーバスでBBCのラジオ版『The Hitchhiker’s Guide to the Galaxy』を聴いたメンバーが、その言い回しを気に入った——という経緯が伝えられている。当初はB面曲「Palo Alto」の仮タイトルだったが、アルバム全体に残った。

ノイ: OK、コンピュータ——今聴くと、AIやスマホの時代と重なるよね。

デコ: Yorkeは、未来を受け入れることと、未来への恐怖の両方を指す、と語っている。ただし「21世紀を予言した」という言い方は、批評的な後付けに近い部分もある。当時は、すでに機械と情報に囲まれた生活への不安を、音楽として結晶化した——という見方が妥当だ。

ノイ: 録音場所、普通のスタジオじゃなかったんだよね。

デコ: 初期はバンドのリハーサル用スペース「Canned Applause」——ディドコット近郊の小屋——で進めたが、不満が出て、1996年9月からバース近郊のSt Catherine’s Courtに移った。女優ジェーン・シーモアが所有する歴史的な屋敷で、部屋ごとに異なる残響を利用した。O’Brienは、約80%がメンバー同時演奏によるテイク(live takes)だった、と振り返っている。


Godrichと、音の設計

デコ: Nigel Godrichは『The Bends』のエンジニアを経て、本作から事実上の共同プロデューサーとなった。以降、Radioheadの全スタジオ・アルバムを手がけ、「第六のメンバー」と呼ばれることが多い。Godrichは、バンドの外側から「テイクが良い」と判断する役割だった、と語っている。

ノイ: バンドとプロデューサーの距離感、うまくいってるんだね。

デコ: 影響源は多岐にわたる。YorkeはMiles Davisの『Bitches Brew』、Beach Boysの『Pet Sounds』、Can、Ennio Morriconeなどを挙げている。Jonny GreenwoodはMellotron、グロッケンシュピール、ストリングス——ストリングスはAbbey Road Studiosで録音された——を加えた。批評的にはプログレッシブ・ロックとの類似も指摘されるが、バンドは1970年代プログへの敬意を否定していた、という記述もある。どちらにせよ、「一曲ごとに違う楽器編成を試す」アプローチが、本作の音の幅を作った。


曲をいくつか:前半

Airbag / Paranoid Android

デコ: 「Airbag」は、Philip Selwayのドラムをサンプラーで編集したビートが土台。自動車事故と輪廻のイメージ——J.G. Ballardの『クラッシュ』への言及が批評で語られることもある。続く「Paranoid Android」は約6分23秒、4つのセクションに分かれる。ビートルズの「Happiness Is a Warm Gun」やクイーンの「Bohemian Rhapsody」に触発された、非標準的な構成だ、とYorkeは語っている。

ノイ: 「Paranoid Android」、初めて聴いたとき、何が起きてるかわからなくて、ずっと聴いちゃった。なんかエモい、というか、不安で美しい。

デコ: タイトルは『銀河ヒッチハイク・ガイド』のマーヴィン・ザ・パラノイド・アンドロイドへの参照。ロサンゼルスのバーでの出来事が歌詞のきっかけ、とされる。

Subterranean Homesick Alien / Exit Music (For a Film)

デコ: 「Subterranean Homesick Alien」はボブ・ディランの曲名への言及を含む。地球外生命に誘拐されたい——という孤立したナレーター。「Exit Music (For a Film)」はバズ・ルアーマンの『ロミオ+ジュリエット』(1996)のために書かれ、映画のエンドクレジットに使われた。石の階段で録ったボーカルの自然な残響が特徴的。

ノイ: 「Exit Music」、静かに始まって、最後に全部崩れる。映画の結末みたい。

Let Down / Karma Police

デコ: 「Let Down」は、Jonny Greenwoodのギターが他の楽器と異なる拍子で演奏される。Yorkeは、移動中の「コントロールできない感覚」について語っている。「Karma Police」は、『The Bends』ツアー中のバンド内ジョーク——「カルマ警察がいつか彼を捕まえる」——が由来。クライマックスで繰り返される「For a minute there, I lost myself」は、本作を象徴するフレーズの一つとなった。

ノイ: 「Karma Police」、みんな一度は口ずさんだよね。でもアルバムの中では、ほんの一コマなんだよね。


Fitter Happier——アルバムの背骨

デコ: 約1分57秒の「Fitter Happier」は、MacintoshのSimpleTextに搭載された合成音声「Fred」が歌詞を読み上げる。Stephen Hawkingの声だ、と誤解されることがあるが、違う。Yorkeは歌詞を10分で書き、1990年代のスローガンをチェックリストのように並べた、と語っている。自分が書いた中で「最も動揺するもの」だった、とも。

ノイ: 声が人間じゃないから、余計に怖い。なんかわかる〜、リストを読まれてる感じ。

デコ: バンドは当初、これをアルバムの冒頭にする案もあったが、効果が強すぎるとして見送った。代わりに7曲目——アルバムの中腹——に配置。批評的には、前後の楽曲をつなぐ「間」として機能している。


曲をいくつか:後半

Electioneering / Climbing Up the Walls

デコ: 「Electioneering」はアルバムで最もロック寄りの一曲。Yorkeは、ポール・タックス暴動やNoam Chomskyの『製造される同意』などを影響として挙げているが、歌詞は比喩的で、直接の政治宣言とは限らない。「Climbing Up the Walls」は、Jonny Greenwoodが書いたストリングス編曲——Krzysztof Pendereckiの『ヒロシマの犠牲者のための哀歌』への言及が指摘される——と、Yorkeの精神病院でのアルバイト経験が重なる。

ノイ: 「Climbing Up the Walls」、聴いてると部屋が狭くなる。エモとチルどっちつかず、というか、逃げ場がない。

No Surprises / Lucky / The Tourist

デコ: 「No Surprises」——バンドは何度も録音を重ねたが、採用されたテイクは初期のワンテイク演奏だった。グロッケンシュピールとハーモニーが、暗い歌詞——「a heart that’s full up like a landfill」——と対比する。O’Brienは、子守唄のような曲だった、と語っている。皮肉なほど美しい、という批評が多い。

デコ: 「Lucky」は1995年、War Childのチャリティー・コンピ『The Help Album』のために一日で録音された曲。War Childのチャリティ活動を通じて、ボスニア紛争への問題意識とも結び付けられる。アルバム後半に配置され、トーンが再び重くなる。「The Tourist」はJonny Greenwoodのアイデアをもとに制作された曲で、Yorkeが歌詞を書いて完成させた。Yorkeはフランスでアメリカ人観光客を見た体験が歌詞のきっかけ、と語っている。アルバムの締め——「スローダウンしろ」というメッセージ。

ノイ: 最後のベルが鳴って、53分が終わる。外の世界に戻される感じ。


コンセプト・アルバムか?

デコ: テーマ——消費主義、技術不安、孤立、現代英国——は一貫している。多くの批評家がコンセプト・アルバム、あるいはソング・サイクルとして論じる。だがバンド自身は、ナラティブで曲をつなぐ意図はなく、コンセプト・アルバムではない、と繰り返し語っている。Jonny Greenwoodは「アルバムタイトルとコンピュータの声一つでコンセプト・アルバムにはならない」と言った、とされる。

ノイ: まとまって聴くと一本の映画みたいだけど、本人たちは否定するんだね。

デコ: その距離感が批評の面白さでもある。通しで聴くことをバンドは意図していた——トラック順に2週間かけて決めた、とO’Brienは語っている。聴き手が物語を感じるのは、構造とテーマの一貫性から来ている。

なぜ今も刺さるのか

ノイ: 2020年代に聴いても、古く聞こえない。むしろ、通知だらけの生活と音が重なる。

デコ: 技術不安、監視、燃え尽き——批評的には、21世紀のムードを先取りした、と語られることが多い。ただし「予言した」と断定するより、1997年時点の不安が、今も有効な抽象度を持っている、という見方が安全だ。

ノイ: 「Fitter Happier」のリスト、今のウェルネス文化とか、自己啓発のSNSとも、ちょっと重なる気がする。無理に今風に結びつけなくても。

デコ: その線引き、大事だね。1998年グラミー最優秀オルタナティブ・アルバム、2014年米国議会図書館のNational Recording Registry選出——批評史上の位置づけは確立している。2017年の『OKNOTOK 1997 2017』リイシューが、その再評価を象徴する。

ノイ: 夜、ヘッドホンで聴くと、1997年のオックスフォードシャーと、今の自分の画面が重なる。53分、長いけど、最後まで行っちゃう。

デコ: いい締めだね。『Kid A』(2000)以降の実験への足がかりとしても語られるが、本作はギター・バンドとしてのRadioheadの頂点の一つ、という見方が多い。美しさと不安が、同じ高さで積み上げられた瞬間だ。


編集部まとめ

『OK Computer』は、世紀末の不安を約53分に圧縮した、批評史上もっとも語り継がれるロック・アルバムの一つです。コンセプト・アルバムかどうかはバンドが否定するが、通しで聴くときの一貫性は確かに存在します。初めてなら「Paranoid Android」から入っても、「No Surprises」から入っても——どちらも、このアルバムの「未来」への入り方として有効です。

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