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世界へ届いた東京発サイケデリア ― Kikagaku Moyo、KEXPライブレビュー

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日本のインディーシーンから世界へ羽ばたいたバンドは数多く存在する。しかし、その中でもKikagaku Moyo(幾何学模様)ほど独自の方法で海外リスナーの心を掴んだバンドは稀だろう。

言葉の壁を超え、ジャンルの壁を超え、国境さえも超えていった彼らの音楽。その魅力が最も純粋な形で記録された映像のひとつが、KEXPで公開されたフルライブセッションだ。

今回は彼らの結成から世界進出までの歩みを振り返りながら、このKEXPライブがなぜ特別なのかを考察していきたい。

東京の路上から始まった物語

Kikagaku Moyoは2012年、Go KurosawaとTomo Katsuradaを中心に東京で結成された。バンド名は「幾何学模様」を意味し、長時間のジャムセッションの果てに見えた幻視から着想を得たという。

興味深いのは、彼らが最初から完成されたミュージシャン集団ではなかったことだ。

多くのメンバーは現在の担当楽器の経験が豊富ではなく、「上手く演奏すること」よりも「一緒に音を探求すること」を優先していた。だからこそ彼らの音楽には技術の誇示ではなく、音そのものへの純粋な好奇心が宿っている。

当時の日本ではサイケデリック・ロックの受け皿は決して大きくなかった。

ライブハウス文化の中で居場所を見つけられなかった彼らは、東京の駅前で路上演奏を行いながら活動を続けていく。だが国内よりも先に海外のオーディエンスが彼らを発見した。アメリカのAustin Psych FestやLEVITATIONなどのフェス出演をきっかけに、世界中のサイケデリック・ロックファンの間で口コミが広がっていったのである。

世界へ広がった「日本のサイケデリア」

Kikagaku Moyoの魅力は単なる復古主義ではない。

クラウトロック、インド古典音楽、フォーク、アシッドロックを独自に融合しながらも、どこか日本的な余白を残している。欧米のサイケデリックロックが持つ過剰な自己主張とは異なり、彼らの音楽には静寂や瞑想性が共存している。

2015年には自身のレーベル「Guruguru Brain」を設立し、アジアのアンダーグラウンド音楽を世界へ紹介する活動も開始。バンドとしてだけでなく、シーンを作る存在へと成長していった。

そして世界中のフェスティバルを巡る中で、彼らは日本国内でも徐々に再評価されていく。

FUJI ROCK FESTIVALへの出演はその象徴だった。

海外で評価された日本のサイケデリック・ロックが、逆輸入的な形で国内リスナーにも届き始めたのである。

KEXPという到達点

インディーミュージックを愛する人なら誰もが知るKEXP。

数多くの名演を世に送り出してきたこのプラットフォームに出演することは、世界的なインディーアーティストとして認められた証でもある。

Kikagaku Moyoは2018年にスタジオセッションへ出演し、その後2019年にはシアター公演形式のフルライブも公開された。今回取り上げる映像は2019年11月に収録されたパフォーマンスである。

東京の路上で演奏していたバンドが、世界中の音楽ファンが視聴するKEXPのステージに立つ。

その事実だけでも胸が熱くなる。

ライブレビュー

「Old Snow, White Sun」

ライブは幻想的な空気の中で幕を開ける。

Kikagaku Moyoのライブは、一般的なロックバンドのように観客を煽ることから始まらない。

ゆっくりと空間を満たしながら、気づけば聴き手を別世界へ連れて行く。

この曲でも反復するギターフレーズと浮遊感のあるボーカルが徐々に広がり、会場全体を巨大なトランス空間へ変貌させていく。

「Cardigan Song」

Kikagaku Moyoの持つフォーク的な側面が色濃く現れる一曲。

サイケデリックでありながら決して難解ではない。

メロディの美しさと柔らかなボーカルによって、異国的でありながらどこか懐かしい感覚を呼び起こす。

「Green Sugar」

ライブ中盤のハイライト。

緻密に組み上げられたグルーヴが少しずつ熱を帯び、観客を飲み込んでいく。

このバンドの凄さは演奏技術そのものではなく、5人が同じ呼吸で音楽を成長させていくことにある。

まるで一つの巨大な生き物が脈動しているようだ。

「Nazo Nazo」

『Masana Temples』を象徴する楽曲。

東洋的な旋律とサイケデリックロックが自然に融合している。

特にライブ版ではリズムのうねりがより強調されており、録音作品以上の没入感が生まれている。

「Kodama」

静と動のコントラストが際立つ名演。

一音一音を丁寧に積み重ねながらも、楽曲が進むにつれて圧倒的な高揚感へ到達する。

まさにKikagaku Moyoの真骨頂と言える。

「Gatherings」

ラストを飾る代表曲。

美しいメロディとサイケデリックな展開が見事に共存し、ライブ全体の旅路を締めくくる。

終演後には深い余韻だけが残る。

それは派手なクライマックスではなく、長い夢からゆっくり目覚めるような感覚だった。

なぜKikagaku Moyoは特別だったのか

2022年、彼らは無期限活動休止を発表した。最後のアルバム『Kumoyo Island』を残し、その旅は一旦幕を閉じた。

しかしKEXPの映像を見返すたびに思う。

彼らは単なるサイケデリック・ロックバンドではなかった。

日本のインディーシーンから生まれた一つの理想だったのではないだろうか。

英語圏の音楽に迎合することなく、自分たちの感覚を信じ続けた結果として世界へ到達した。

KEXPのステージに立つ彼らの姿は、その証明そのものだった。

もしまだこの映像を観たことがないなら、ぜひ夜更けに部屋の明かりを落として再生してみてほしい。

そこには音楽が国境を超える瞬間が確かに記録されている。

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